[後編]グーグルは“クラウドの世界”を作る,あらゆる取り組みはクラウドに通じる

端末メーカーは変わるのか。

 パソコンはともかく,携帯電話にはいくつものプラットフォームが乱立していて,新規に機種を開発するのに下手をすると100億円を超える開発投資が必要だった。基本的な部分の開発だけで息切れして,アプリケーション開発にたどり着けなかった。

 Androidを使えば,基本的なところは開発しなくてよい。アプリケーションから上のレイヤーに集中できるため,開発効率や開発コストを大幅に下げられる。共通プラットフォームなのでユーザーの使い勝手や互換性も高まる。

 日本は国内でしか通用しないフォーマットでやってきた。それがAndroidを使うと,いきなりグローバルにデビューできる。こうした側面は端末メーカーにとっても,使い勝手が良いはずだ。

Androidを家電に転用する動きが一部のメーカーにある。

 携帯電話と同様に家電製品でも,新しいプラットフォームを導入して,その上で開発していく方が,メーカーにとっては効率が良い。基本から開発する必要がなく,開発効率は上がるし,膨大な量になったソフトウエアを使える。

 テレビや新しい家電群はネットワークにつながり,その先にはクラウドがあって,ユーザーは端末からサービスを使う。だとするとプラットフォームに当たるものを誰かが準備すれば,開発や進化のスピードは速くなるはずだ。

では端末とクラウドをつなぐネットワークに望むことは。

 帯域を増やして速度を上げること,そして遅延を下げることだ。通信の品質やセキュリティも重要になる。こうしたものが向上すれば,ユーザーのクラウドの利用拡大に寄与できる。

 先日陸揚げした日米間光ファイバにグーグルが出資したのも,クラウドのインフラへの投資である。今後も,インフラへの投資は積極的にやっていくだろう。

日本国内では米国発のクラウドに対抗して,信頼性を高めたクラウドをアピールする事業者が出ている。

辻野 晃一郎(つじの・こういちろう)氏
写真:的野 弘路

 新しい概念で新しい技術を包含するクラウドには,サービス品質や安定性など課題が多い。この課題を克服することは大事で,SLA(サービス品質保証)を明確にしていくことが重要になってくる。

 ただ課題は多くの場合,時間が解決する。世の中のトレンドとしては,多くのサービスがこれからもクラウドに移行していくし,この流れは止まらない。コストの面も,生産性の面も,業務コラボレーションの面からも,クラウドに移行させたほうが便利だからだ。

日本のユーザーに向けて,クラウドで提供するサービスをカスタマイズする可能性はあるか。

 例えばユーザー・インタフェースではあるかもしれない。データの置き場所が海外にあることについても,ユーザーが感情論で不安視するなら,日本に置くことを考えないといけない。

 ただ論理的には,データの安全性には問題が全く無い。データは米国だけではなく,世界中のデータ・センターに多重化している。このことを根気強く訴え,理解してもらう必要がある。信用を得るには,実績を積み上げていくしかない。

2010年にクラウドはどうなると考えているか。

 個人のクラウド利用は,ユーザーの生活の中に溶け込んでいるし,その依存度はどんどん高くなっている。パソコンでクラウドに接していたユーザーは,モバイルでの利用にシフトし始めた。

 企業はIT投資に非常に神経質になっている。グーグルにすべて任せると社内システムを安く,効率よく,高いセキュリティで作れると判断し,社内システムを移行させるという動きが2009年に大きく広がった。

 グーグルのクラウドのソリューションを使っている企業は,世界中で200万社あり,前年比で2倍に増えた。社内システムをクラウドに乗せ替える動きは2010年はさらに進むはずだ。

グーグル 代表取締役社長
辻野 晃一郎(つじの・こういちろう)氏
1957年,福岡県生まれ。1984年に慶應義塾大学大学院工学研究科を修了し,ソニーに入社。1988年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。ソニー在籍中はVAIO PC事業創業期の事業責任者を務めたほか,ホームビデオ,パーソナルオーディオなどのカンパニープレジデントを経て,2006年に退職。2007年4月にグーグルに入社し,執行役員 製品企画本部長として日本法人でのグーグル製品全般を統括した。2009年1月に代表取締役社長に就任(現職)。

(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2009年12月15日)