クラウド・コンピューティング・サービスの提供をはじめ,クライアントOSのAndroidやChrome OSまでを手がけるグーグル。2009年末には日本語入力ソフトや日本語音声検索機能といった,日本独自のサービスを投入してきた。全世界規模でビジネスを展開するグーグルの中で,日本法人が果たす位置付けやサービスの狙いはどこにあるのか。その具体像を辻野社長に聞いた。
グーグルを紹介するときに,現在は“何の会社”と表現するのがふさわしいか。
難しい質問だ。在り来りの答えだと“検索エンジンの会社”だが,最近の取り組みを含めて答えると,“クラウド・コンピューティングの世界を作っている会社”となる。グーグルはスマートグリッドや代替エネルギーなどにも手を出しているが,これらすべてはクラウドに通じている。
日本法人は,グローバル戦略の中でどのような位置付けか。
グーグルの海外オフィスとして最初に立ち上がったのが日本法人で,エンジニアリング拠点として非常に重要だ。
グーグルで仕事をする際に一番重要なのは,グローバルに拡大すること。常に世界全体を市場としてとらえ,特定の地域ではなくグローバルな貢献を意識して仕事をする。さらにインターネットやクラウドに関するイノベーションを世界に向けて広げようという視点もある。
グローバルと日本国内の関係では,全体最適と部分最適のバランスをどううまく保つかが重要だ。グローバルに拡大することは全体最適の解を作ることだが,それを地域に当てはめるには,機能やニーズなどをその地域のユーザーの好みに合わせたローカライズが重要になる。
例えば「Google」のトップページは,全世界で真っ白な背景に検索ボックスがあるだけにしていたが,日本だけ検索ボックスの下にプロダクト・リンクを付けている。地域ごとに違う競争状況に対応したものだ。
日本の通信環境は世界的にも充実している。高速なインフラの下で先進的なアプリケーションを作って,それを海外に展開するというモデルがあるのでは。
日本人は非常に良いアイデアや先進的な技術を早い段階で思い付いている。これら日本発の技術やアイデアを生かしていく道はたくさんあると思う。
問題となるのは,日本企業は世界に展開するためのプロセスをうまく回せないこと。コミュニケーションの弱さなのか交渉力の弱さなのか,言葉の問題なのか,世界標準にしていくところが上手ではない。
その部分に日本のグーグルが貢献できることはあるか。
まさにそこが,グーグル日本法人の使命だと思う。日本の才能や技術を世界の発展のために生かすことが,グーグルが日本にいる最大の意味だ。
グーグルがグローバルな環境で提供するサービスは,地域を限定せず,世界でリアルタイムに広がっていく。そこに日本の発想やアイデアを融合させていくことが大事だ。日本の優れた発想をローカルに閉じ込めて終わらせるのではなく,世界で役立てられるようにしていく。
12月に日本語入力や日本語音声検索機能の提供を始めた。その狙いは。
これもクラウドの世界を使いやすくするものと考えると分かりやすい。日本語音声検索機能は,ユーザーに手元でいろいろな操作をさせないための仕掛けの一つだ。
クラウドの世界に移行する中で,端末に求められる機能やソフトウエアの役割はおのずと変わってくる。パソコン向けのChrome OSやChromeブラウザ,そして携帯電話向けのAndroidは,クラウドを前提にクライアント環境を作り直しているものだ。
今後は,携帯電話が内蔵するセンサーやGPS(全地球測位システム)などが,ユーザーがクラウド・サービスを便利に使いこなすために必須の機能になっていく。ロケーション情報は,ユーザーが現在位置を入力しなくても,近隣の情報を出すうえで非常に重要になっている。
クラウドを前提としない環境で進化してきた技術やソフトウエアの世界は,今後どんどんクラウドを想定したものに塗り替えられていく。
そのときに端末はどうなるのか。
端末はクラウドを前提としたアクセス・デバイスになる。将来はユーザーが手元にデータをすべて持つ必要はなくなる。
データを端末側にすべて持てるはずもない。グーグルは検索対象となる情報空間をオンラインのテキストから動画,そしてオフラインである印刷された本へと次々に広げているからだ。クラウド側では,それらをサーバー側にためたり,世界中に分散している情報を探し出したりしている。
辻野 晃一郎(つじの・こういちろう)氏
(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2009年12月15日)