ネットワークを持つ企業やエンドユーザーは、いずれ現行のIPv4から次のIPv6への移行を検討する時期がくる。その際に使われるさまざまな移行技術の一長一短、あるいはIPv6利用時のセキュリティについて、どのように考えればいいのだろうか。シスコシステムズでIPv6移行技術「6rd」に携わるタウンズレー氏と、IPv6セキュリティに携わるビンケ氏に聞いた。

(聞き手は、山崎 洋一、田村 奈央=日経NETWORK)


6rdとはどのような技術か。

写真●米シスコシステムズ ディスティングイッシュト・エンジニア エリック・ビンケ氏(左) ディスティングイッシュト・エンジニア マーク・タウンズレー氏
写真●米シスコシステムズ
ディスティングイッシュト・エンジニア エリック・ビンケ氏(左)
ディスティングイッシュト・エンジニア マーク・タウンズレー氏

 6rdは、IPv4ネットワークの上にIPv6パケットを流すトンネリング技術だ。私がパリの自宅で使っているプロバイダー(ISP)は、既に6rdを採用している。このプロバイダーが6rdを使い出したら、そのネットワークにおけるIPv6接続のトラフィック統計値がすぐに増えた。プロバイダーは6rdを採用することで、トンネリングなどを使わず直接IPv6ネットワークにつながるネイティブ接続と同じように、IPv6インターネット接続サービスをエンドユーザーに提供できる。

どのような特徴があると考えるか。

 6rdは、IPv4ネットワークを活用して早くIPv6ネットワークを展開できる手段だ。これは裏を返せば、6rdはIPv4に依存するため、IPv4からIPv6への完全移行に時間がかかるということでもある。この点でIPv6のネイティブ接続は、IPv4を利用せずに済み、アドレスプランに自由度を持たせられるというメリットがある。

 6rdは「6to4」というトンネリング技術をベースにしている。プロバイダーが6to4を実装していれば、若干の修正を加えれば利用できる。6to4は「2002:」で始まるプレフィックスしか使えず、これだとエンドユーザーがインターネット上で使っていくうえで信頼性が足りない。自由に中継できてしまうためだ。6rdでは、IPv6プレフィックスはプロバイダーのものになる。プロバイダーが中継するため、自身で装置やサービスをコントロールできる。

6rdはこの技術に対応するブロードバンドルーターやケーブルモデムなどのCPE(customer premises equipment)が必要になる。CPEの扱い方はプロバイダーによって異なるが、6rdはどのようなプロバイダーに向いているか。

 いちばん採用しやすいプロバイダーは、市販品ではなくプロバイダー自身が配るCPEを使うところだろう。6rdが日本のプロバイダーで使われることも多分あると思う。IPv6普及のスケジュールは短縮できるという意識になってきている。私が6rdに携わっているのは、世界中のプロバイダーが直面する問題の解決策として、うまくはまると考えたからだ。

CPEの内側にあるパソコンに6rdの機能を入れてしまう計画はないのか。

 そのような話はいろいろ出ている。ただ、パソコンの外側では(CPEなどで)NAT(network address translation)が実施される。率直にいえば、NATを介して6rdが機能するメカニズムにすると非常に複雑になる。6rdはIPv6のネイティブと同等のサービスを提供することが目的で、ユーザーがソフトウエアのインストールなどをせずに使えるのがメリットだと考えている。つまりパソコンに入れてしまうと、どうしても6rdのメリットが薄れてしまう。よって、今作成しているインターネットドラフトには、NATに対応させる機能は含まれていない。パソコンに6rdを追加するよりは、L2TP(layer 2 tunneling protocol)というトンネリング技術を採用したほうがいいかもしれない。

6rdとL2TPはどう使い分けるといいのか。

 L2TPとPPP(point to point protocol)を採用しているプロバイダーの場合、PPPはIPv4とIPv6のデュアルスタックで使えるため、この組み合わせは非常に良いものだと思う。一方、L2TPとPPPのインフラを持っていないプロバイダーや、PPPをIPoE(IP over Ethernet)に移行しようとしているプロバイダーにとっては、6rdが役に立つ。

 このほか、L2TPを採用しているプロバイダーがIPv6サービス用に別のインフラを作るとなると、すべてのPPPセッションのステートについて、IPv4とIPv6の冗長構成にしなくてはならない。今はまだIPv6のトラフィックは全体から見ると少ないわけだが、プロバイダーがIPv6サービスをきちんと提供しようとすれば、「L2TP Network Server(LNS)」というトンネルコンセントレータが多数必要になる。このためサポートできるユーザー数にはどうしても限界がある。6rdの場合は、個々のユーザーのステートを保持する必要はない。ユーザー数ではなくトラフィックの負荷を考えればよい。こうした拡張性の点では、6rdのほうが優れていると思う。

IETFにおける、6rdのインターネットドラフトの議論の進展は。

 広島のIETF会合では、「Softwire WG」というワーキンググループの冒頭でプレゼンテーションをした。関連するワーキンググループのチェアからは、「次のバージョンのドラフトを出してほしい」と強いプッシュがかかっているが、RFC(Request for Comments)になるのは今年のどこかでという感じだろう。

 ただ、IETFで標準化にかかわる作業をしたり、ベンダーでの仕様実装に携わったりした経験から、「RFCがすべてではない」ということがいえる。ほかのベンダーとやりとりして、実装の一貫性や相互運用性をきちんと持たせることが大切だ。6rdに関して、今年は相互運用に関わるイベントを開催できると確信している。

IPv4アドレス枯渇の対策技術として、プロバイダー網内でNATを実施する「NAT444」などが議論されている。

 IPv6とNATには、前者は「(その気になれば)使うことができる」、後者は「(嫌がおうにも)使わざるを得ない」という違いがある。私が特に6rdのようなテクノロジーを紹介するのは、IPv6を一緒に導入することなくIPv4のNATサービスを始めてしまうプロバイダーが出てこないことを願っているためだ。私の思いとしては、NAT444よりも先にIPv6を普及させたい。