[前編]海外進出は成長するアジアを重視,LTEもNGNも同じ戦略で展開

サービス創造とグローバル展開に向けて大きく舵を切ったNTTグループ。世界の最先端にあるブロードバンド・ネットワークを背景に新しい成長戦略を描いている。クラウド・コンピューティングの拡大や携帯電話端末のオープン化など,世界的な変化の中,NTTはどこへ向かうのか。総務省で始まったICTタスクフォースの議論とのかかわりを含め,2010年のNTTの方針を三浦社長に聞いた。

グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース(ICTタスクフォース)の公開ヒアリングでは,サービスと組織の関係について発言したと聞くが。

 ヒアリングでは,組織ではなくサービスの在り方を議論したいと主張した。

 我々はユーザーから,料金請求などをワンストップでしてほしいと要求を受けている。コンテンツ・プロバイダからは,東西で別にサーバーを立てなくてはならない制約に対して不満を聞かされる。上位レイヤーが育たない状況なのに,それを後押しする環境が整っていないのだ。

 確かに昔はNTTにしかできないことがあったが,今はほかの通信事業者が実質1社でサービスを提供している。ユーザーが要望していることに対して,以前とは逆にNTTだけが対応できない状況になっている。

 いまや通信も国内に閉じた問題では済まず,グローバルな競争に入っている。NTTの組織について20年以上も議論をしてきたが,ここに時間を費やしていたのでは世界から取り残される。

 現在も制約が多過ぎる。世界の流れに合ったものに見直して,必要なものに限り事後規制にしてほしい。

民主党政権になって,ICTタスクフォースで国際競争力を議論するなど,従来とは異なるアプローチが見える。

 国際的な視点は従来もあった。2006年の「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」(骨太の方針2006)には,NTTの中期経営戦略の動向に加えて“世界的な状況を踏まえ”という表現がある。今回のタスクフォースでは,この視点を明確にしたのだろう。

 ある競合事業者の社長は,タスクフォースに“グローバル”というタイトルが付いたことに不満を漏らしていた。私から見るとグローバルのICTを議論することは当たり前であり,その社長の視点が偏っていると思う。

ヒアリングでは他の通信事業者から国内の競争を議論すべきという意見があった。NTTとしては何を主張するか。

 我々の主張は一貫している。グローバル化に加え,少子高齢化が急速に進む日本で,経済成長の3分の1を占めると言われるICT産業が強くならなければ経済発展に寄与できないということだ。これはもはや通信事業者だけの問題ではない。

 しかも政府が2020年に温室効果ガスを1990年比で25%削減すると対外的に宣言したことで,環境問題に火がついた。医療や教育などでICT利活用が遅れている問題もある。NTTは様々な社会的課題をICTで見直し,解決することに貢献していきたい。

ではNTTが海外進出を進めるうえでの国際戦略は。

 一つは「トータル・ソリューション」の拡大だ。NTTデータやNTTコミュニケーションズ(NTTコム)などが海外のシステム会社などを買収して拠点を展開し,グローバル化する日本の企業を世界規模で支援するソリューションを提供する。

 さらに携帯電話サービスや携帯電話向けコンテンツ配信などを海外に展開する「グローバル・ネットワーク・サービス」も推進する。特にアジアの成長を踏まえ,ここを中心にビジネスを展開しようと考えている。

 海外の事業者に出資する場合は経営権まで手に入れたいが,アジア各国には難しい問題がある。規制が残っていたり,通信事業者の資本をその国の政府が高い割合で持っていたりする。

 このためマイナーな出資にすることや,出資はせずに携帯電話のローミング・サービスなどでグループを形成していくことも選択肢としている。