[後編]移動体は帯域があれば高速化できる,LTE導入の最大の理由はコスト

KDDIが導入したCDMA2000 1x EV-DO Rev.Aは,速度面で他のサービスに見劣りしている。

 ここには誤解が多い。極端に言えば,使える周波数帯域が広ければ速度は高められる。スペック上の最大速度や方式の違いを議論しても仕方ない。

 移動体通信のボトルネックは,すべてアクセス系にある。使える周波数帯域が決まっている限りは,最大速度がどれだけ高くても,分け合うユーザーが多ければスピードは制限される。だとすると,ユーザーに平均でどの程度のスピードを提供できるのか,もっと高速を必要とするユーザーにはどう対応するのか,ということが重要になる。

 KDDIはCDMA2000の次にLTE(long term evolution)を採用する予定だ。その最大の理由は高速化ではなくコスト削減だ。試算ではLTEならRev.Aの5分の1のコストになる。今までの5倍の容量を要求されても,従来のコストで実現できるという意味だ。

 データ通信のボリュームが増え続ける中,定額制料金を維持するにはネットワーク・コストを下げるしかない。その最大の武器がLTEとなる。

しかしユーザーはつい,最大速度に気を取られがちだ。

 高速化を求めるユーザーが,「速ければ速いほど良い」と言ってカタログ・スピードを気にするのは仕方ない。しかし,もっと重要なのは実際にどの程度の速度が出て,それが自分たちの業務にとって十分なのかどうか。この視点で考えるべきだ。

携帯電話端末ではオープン化の波が広がっている。KDDIはスマートフォンを出したものの,取り組みは遅いように見える。

 スマートフォンは,日本国内のユーザーに使い勝手が良い端末を出さないと広がらないだろう。iPhoneの国内のユーザーの数は百数十万といわれているが,こうした端末に興味がある人はもう既に使っている。Windows Mobileを使う企業も増えているが,特定の目的があって使っている。しかし一般のユーザーがみんなスマートフォンに飛び付いているわけではない。

 KDDIはAndroidに期待しているが,最初から端末に載せるサービスが何かが大事と考えている。2010年に投入するAndroid端末では,端末に載せるサービスを作り込んで提供する。

Androidはオープンである半面,端末とサービスを絡めた作り込みはまだ進んでいないと感じる。

 機能の作り込みもそうだが,我々が心配しているのはセキュリティの部分だ。従来の携帯電話端末はクローズドな環境でできていたため,セキュリティ面では守られていた。だからこそ,FeliCaなど現金代わりの機能を携帯電話に載せても,ユーザーは安心して使えた。しかしオープン化が進むと,これまで守られていた部分に簡単にアクセスできるかもしれない。そうすると今までなかった問題が噴出する。

 KDDIが来年出すAndroid端末では,こうした問題を含めて注意を払う。ユーザーが敏感なところは,安心して使えるよう工夫する考えだ。

総務省でグローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース(ICTタスクフォース)が始まった。ここでNTTの組織にかかわる議論はどうなりそうか。

 NTTの組織論は,日本国内の電気通信の競争をどう考えるかという中で議論するべきだ。

 1985年の通信自由化以来,郵政省と総務省に常に言ってきたのは,公正競争条件の整備だった。私は公正競争条件を今後どう整備するか,その条件を満たすにはNTTの組織がどうあるべきなのかを考えたい。

 順番としては,国際競争力よりも公正競争条件をどう整備するのかを考えたい。その中で国際競争力の議論もあり得る。