長崎ちゃんぽん専門店やとんかつ専門店を展開するリンガーハットに業績回復の兆しが見えてきた。2009年12月の既存店売上高は全社で前年同月比2.0%増と、2008年8月以来16カ月ぶりのプラスになった。これまで2004年2月期から2009年2月期にかけては、6年間で4回の最終赤字に陥るなど業績不振が続いていた。2010年2月期は通期で最終黒字を見込む。

 売り上げ回復をけん引したのは長崎ちゃんぽん専門店「リンガーハット」の既存店売上高が同5.9%増と、2008年3月以来、21カ月ぶりのプラスになったことだ。2008年9月、およそ3年ぶりに社長に復帰した米浜和英代表取締役会長兼社長が立て直しに奔走してきた効果が表れている。米浜会長にこれまでの改革の足取りや今後の課題を聞いた。(聞き手は、井上 健太郎=日経情報ストラテジー)

写真●2008年9月に3年ぶりに社長に復帰したリンガーハットの米浜和英代表取締役会長兼社長
写真●2008年9月に3年ぶりに社長に復帰したリンガーハットの米浜和英代表取締役会長兼社長

2008年9月に復帰後、何から着手したのか。

 課題は幾つもあった。まず2009年2月期の閉鎖店舗数を従来計画の20店から53店に増やした。これほどの大規模閉鎖は、前任の社長にはできなかったことだから、まず自分がやらなければいけないと思った。特にロードサイドの店舗は、出店当初は立地が良かったのに、大きなショッピングセンターが商圏にできるなどで、お客の流れが変わってしまったものが多かった。

 2つ目が、クーポンを乱発して売り上げの3~4割をクーポンに頼るようになっていたことだ。これを続けると値引きのスパイラルにはまってしまうので、チラシによるクーポンは廃止した。完全にやめたわけではないが、会員登録者に限定している。

 3つ目に、自社工場で作れるものはなるべく内製化することだ。この1年で内製化率は十数ポイント上昇させた。我々はメーカーでもありサービス業でもある。外注ばかりでは、自信を持って売っていくことができない。

 そして4つ目に、2009年10月1日からお出しする野菜をすべて国産品に変えて値上げしたことだ。450円前後のメニューを地区によって最大100円引き上げたが、この効果が12月になってみるみる上がってきた。

値上げして受け入れられる勝算はどの程度あったのか。

 野菜材料で差別化する方針を2008年9月の役員合宿で決めたが、確かに心配もあった。コンサルタントから「健康メニューで高付加価値化を図り失敗した例は過去にある」と忠告されたこともある。それでも輸入の冷凍野菜より味が良くなり、量を増やすので、ワンコインの500円前後ならば受け入れてくれるはずだと踏み切った。テスト販売でメニューを見極め、工場で使う刃物も変更するなどの準備に1年ほどかかった。お客様の声を分析すると、国産の生野菜を使うことに都会のお客様のほうが付加価値を感じてくれる傾向があるようだ。

日本マクドナルド出身だった前任社長の八木康行氏は2005年からミステリーショッピング(覆面調査)を導入した。今はどのように顧客満足度を把握しているのか。

 2008年にも覆面調査は実施したが、2009年はやめた。代わりにレシート番号や満足度を携帯電話やパソコン経由で回答していただく満足度調査システムを活用している。3年前から一部で活用していたが、2009年に全社展開した。2009年の年間回答数は35万件に達した。今は1週間で1万件のペースだ。週ごとに該当店舗に結果をフィードバックし、さらに3カ月ごとに総合満足度を出して店長の評価にも活用している。エリアによっては、顧客インタビューも実施している。

今後の課題は。

 まず立地別のメニューや雰囲気作りをもっと工夫していきたい。ショッピングセンター内の店舗であれば女性や子供が中心、都心部であれば男性が多いといった客層に応じて、接客のスピード感や、お酒のメニューも変える必要がある。そうした工夫が当社はちょっと遅れている。

 原価低減もより徹底させる。例えば仕入れるキャベツは、店頭小売り用の倍以上の2kgに育ててほしいという要請を産地に出しているところだ。通常より1カ月程度収穫を遅くするだけで倍以上に育つのだから、コスト的に大きなメリットになる。これまで15年間続けてきたトヨタ流のノウハウに学びながらの改善活動も続けていく。まだまだ改善活動は理想の半ばだ。世界的に通用するような生産・調理手法の開発を目指している。

 より活気のある店作りも課題だ。前回私が社長だったころから、店舗の改装方針は「店をきれいで静かなものにする」としてきたが、方針を変えた。ちゃんぽん店は間近で調理されて匂いや音が顧客に届くようなシズル感を演出するべきだ。調理場と客席のガラスの仕切りは取っ払えと言いながら改装を進めている。