ICTタスクフォース内の「過去の競争政策のレビュー部会」では,競争政策を大きく転換する考えなのか。
それはレビューの内容による。部会では,オープン化を進め,料金を引き下げ事業者を分割して,競争を促してきたこれまでの政策のレビューと,これから何をしていくかの両方を議論していく。
これからの検討の中では,例えばシンガポールのシングテルなどが実践するような世界戦略をどう加えていくか,世界の中でどうやって競争の主導権を握るかといった視点が必要になる。
今までの日本の通信政策は設備競争を前提としていた。
これも従来型の発想だ。しかし現在は,どの分野でも上位レイヤーが力を持つにつれて,設備を持たないものが強くなるということが起こっている。
ただ設備はなくて良いかというとそうではない。すべてにオープンで誰もが平等に使えるシステムを作る際に,誰の責任で,誰の負担でインフラを整備すれば良いか,ユニバーサル・サービスは誰が保証するのか,そこでの国の役割は何かといった整理が必要になる。そのうえで,さらなる競争環境の整備や独占の禁止を考えることが課題になる。
独占については,一つ懸念がある。かつては施設による囲い込み,いわゆるボトルネック設備にアクセスできるか,あるいはボトルネック設備をオープンにできるかというのが重要だった。それがここへきて“知的な囲い込み”が重要になってきた。
これは知的なネットワークに属しているかいないかで,大きな差が出るという問題だ。これはまさに知的財産の問題に直結する。
これは上位レイヤーのデジタルデバイドと考えていいのか。
そうだ。所有する知のレイヤーが高いほど,主導権が強くなる。そうなると,この環境に独占という考え方を入れて,どうオープンにするのかを検討しなくてはいけない。単なる設備の公開や公正さだけでなくて,知的な財産を持つ人の権利を保証しながら,そこを共有するためのシステムをどう作るかが課題となる。
来年度予算の概算要求の中に,ICTを使った共同教育システムを加えている。ここで取り入れたいのは,知識の共有だ。人をはじかない,知識を独り占めせずに分け合うことでさらなる知の創造ができる,そういうシステムを作りたい。
これまでの教育システムでは,あらかじめ問題に答えがあって,その答えにうまくたどり着けた人が評価されるシステムだった。
NTTは11月の中間決算発表の際に,「サービス創造」や「グローバル展開」といった言葉が並ぶ取り組み方針を発表した。
かつての国営企業が昔のしがらみを脱するという動きは必要だろう。そうしてメガキャリアとして世界に飛び立つのも大事だ。
我々が問題視しているのは,日本の企業は技術も経営も世界に冠たるものだが,アプリケーションでは世界の中位あたりになってしまうということ。それはなぜなのかをタスクフォースで議論する。その際には,“人間中心”の観点から議論していきたい。人間を無視したICT政策はありえないというのが私の信念だ。
日本のコンテンツ産業には,通信事業者主導でやってきた従来の構図を抜け出そうという取り組みが見え始めてきた。こうした動きを世界に向けて転換させていく。
一般のユーザーはICTタスクフォースにどういう可能性を期待できるのか。
タスクフォースが目指すのは,すべての人に公平で公正で,様々な社会的制約を受ける人たちからバリヤーを取り払うことである。ここで通信が非常に役立つだろう。
そして人間の尊厳を保証するため,コミュニケーションという民主主義の基本を強固にしていく。
原口 一博(はらぐち・かずひろ)氏
(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2009年11月10日)