2009年9月に鳩山由紀夫内閣の総務大臣に就任した原口一博氏。10月末に「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」(ICTタスクフォース)を立ち上げ,総務省の枠にとどまらず,ICT産業界全体を巻き込んだ検討に着手した。政治主導の体制を組織し,議論を進めるところも大きな特徴だ。原口大臣にタスクフォースの議論の方針を中心に,今後の視点を聞いた。
ICTタスクフォースが扱う領域は,総務省の枠を超えているように見える。タスクフォースのそもそもの立脚点は。
ポイントは世界との競争政策に置いている。
例えば,携帯電話で世界的に高いシェアを持つフィンランドのノキアでは,日本製の部品が高い割合を占める。日本の部品メーカーは様々な規格や基準を先導しているのに,世界の中で高い地位を得られていない。これはどうしてかを考える必要がある。
ICTタスクフォースには,国内の競争をさらに活発にするとともに,国際的な競争市場の中で日本の様々な技術や資本が優位になり,これを基に世界の中で貢献するにはどうすればよいかという観点を盛り込んでいる。
もう何年も前になるが,米シスコが中国にIPルーターをたくさん配って,実質的なデファクト・スタンダードを自分たちで作っていこうとしていた。日本ではこれらの取り組みに対する議論が非常に不足していた。
今後は知的なコンテンツや上位レイヤーの優位性がさらに高まる。こうした中では,大きな視点がないと,海外との競争には勝てない。例えばICTタスクフォースの部会のある構成員とは,教育のパラダイムそのものを変えなければいけないと議論した。
日本のGDP(国内総生産)は2010年に中国に抜かれ,世界3位になると言われている。地下資源を持たない一方で,知的財産を次々に生み出してきた日本は,これから知的財産から得られる利益をしっかりと国民に還元できるのか。そういう観点を入れていく。
4年前の「竹中懇談会」では,通信と放送に対象を絞り,その象徴的存在であるNTTとNHKを中心に議論した。
今ある組織をどう立て直すかという視点,つまり民営化されたNTTの組織形態をどうするかを考えるのはとても大事だ。我々はこれら従来のアプローチを否定しているのではなく,それだけでは到達できない課題を検討しようとしている。
情報通信は民主主義の基本であり,情報通信に対するリテラシの在り方から,知的財産を基に主張できる権利といったことまでを議論する必要がある。これが無い,単なる技術論や経営形態論ではカバーできない範囲が広がってしまう。
日本が国際競争を勝ち抜くには,総務省の枠にとどまらず,省庁の組織変更などにも踏み込まないといけないのでは。
これは鳩山由紀夫内閣が挑戦している課題と重なる。それは分限管理制度との戦いだ。
これまでは,経済産業省に近い領域や文部科学省に近い領域など省庁間で調整が必要なところは,誰もやりたがらないものだった。つまり内閣総理大臣が強力なリーダーシップを持って様々な政策を一元的に進めようと思っても,分限管理によって,“ここの所掌は総務省でここの所掌は経産省”となってしまう。本来なら国家を挙げての政策が必要であるにもかかわらず,“たこつぼ”のような狭い枠の中に入り込んでしまっている。
だから私はあえてこの枠を取って,政策決定プラットフォームの下に4部会を作って検討することにした。
9月に米国FCC(連邦通信委員会)のジュリアス・ジェナコウスキー委員長と日米合同の検討部会を設立すると合意したのも同じ狙いからだ。どこかにボトルネックがあると情報が滞ってしまう。様々なサイバー・アタックや知的財産侵害と戦う必要性も高まっている。そうならば別々に検討するのではなく,共同のシステムを作ろうということで合意した。
前政権は「i-Japan戦略」を提唱していたが,今後はこれに相当した戦略を作る考えはあるか。
前政権は,我々とは政党の姿かたちが違っていて,考えも全く異なっている。特に世代の違いを強く感じる。我々が大事にしているのはビジョン型の改革で,問題対処型ではない。
かつての竹中懇談会は競争を制限しているものが何かに着目して,オープンな市場を作ろうとしていた。ただ,その取り組みに欠けていたのが,時間軸の視点だった。
つまり,ある時点ではドミナントのための施設だったものが,その後のある時点では不良資産になることもあるという意味だ。こうした視点が,技術開発が激しい時代の競争政策の中心にならなくてはいけない。
競争が公正で国民に利益を還元できるようにするためにも,前政権がやっていた硬直的な“ピラミッド型”発想は取らない。
原口 一博(はらぐち・かずひろ)氏
(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2009年11月10日)