NTTも通信事業者としてクラウドの公共的側面について言及している。
NTTの研究所では将来のクラウドの分散処理を研究している。その一方でNTTコミュニケーションズやNTTデータなどのデータ・センター・ビジネスと,それらをつなぐネットワークを持っている。NTTグループとしてはクラウドへの対応抜きに将来のビジネスはないと思っているはずだ。
NTTだけでなくKDDIも通信事業者として,複数のクラウドを選択する仕組みを作ろうとしているようだ。
総務省の発表によると,クラウドのテストベッド環境の構築に関する政府の補正予算が削られた。
その分,「セキュアクラウドネットワーキング技術」と「自治体クラウド」は削られなかったと聞いている。民主党政権はクラウドの重要性を認識しており,クラウドにかかわる事業をすべて切るわけではないようだ。
テストベッドは,各省庁の情報を集約するのは危険なので,シミュレータなどで小規模に実験しようというものだった。省庁ごとにばらばらにやるのではなく,業務やメタデータなどを共通化するあたりをトライアルで検証しようとしていた。今回はともかく,予算はいずれ復活すると考えている。
情報通信研究機構(NICT)が中心となって進めているNwGNについて聞きたい。現在のスケジュールは。
2015年ころまでに基本的な部分を明確にして,実証実験を始められるようにしたい。実際の利用では2020年ころから特定の分野で使われるという展開を想定している。
NwGNではIPを使わないところが強調されている。
IPを使わないというところに引っかかりを感じる人はいるかもしれない。しかしこう言わないとNwGNでも,IPをいじる話だけになってしまう。
NwGNで考えたいのはもう少し先の技術。だからNon-IPと言っているが,現実的にはたぶんIP技術も入ってくるだろうし,結局は残るだろう。
一方で,IPではない技術もユーザーから使えるようにする。具体的には,米国のスタンフォード大学で検討している「OpenFlow」などのパケットのフローを制御する技術や,パスを確保してサービスを提供する電話網のような技術などを使えるようにする。
Non-IPと言う背景には,現在のIP技術への不満もあるはずだ。
一つはQoS(サービス品質)を確保できないところだ。
NTTのNGN(次世代ネットワーク)ではIPの世界でQoSを確保するとしているが,そのためにNGNのアーキテクチャにはネットワーク部分に複雑な機能を入れている。NGNが従来の電話網を置き換えるものという考え方がある以上,必要というわけだ。ただこうしたやり方で本当に良いかを考えないといけない。
もう一つはセンサーなどの小型機器が,IPv6アドレスを持って個別に処理をするのでは大げさ過ぎること。数が非常に多く,安くて低消費電力のセンサーをまくのであれば,IPv6よりも単純なプロトコルの方が良い。こうした従来にないアプリケーションを設計する際に,現行のIPv6ネットワークでできるかを考えようとしている。
次の動きはベンチャー企業が生み出すものであり,国などの研究所から生まれるものではないのでは。
現在インターネットで活躍している海外の企業の多くは,古くからの通信事業者系ではなく,ベンチャーから出てきた。本来であれば日本でも,技術を持った企業が出てきて大きくなっていくモデルが育ってほしい。
ただ日本では,ベンチャーが育ちづらい。日本には光ノードなど海外に通用しそうな強い技術があるが,これらは大手の企業の中にある。これらとは別に例えばNwGNを大学の研究などで進めている中からベンチャーが育って,ビジネスを発展させていく形が望ましい。
インターネットは1969年に研究が始まり,実用になったのは1990年ころだ。それまでは米国が資金を提供し続け,その結果ベンチャー企業として花開いた。日本にも近視眼的にものを見るのではなく,ベンチャーが育つ土壌を作り,ある技術で世界のシェアを獲得する仕掛けが必要だ。
デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構 教授
青山 友紀(あおやま・とものり)氏
(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2009年10月23日)