企業のクラウド・コンピューティングの採用が広がる中,総務省が後押しして始まった「グローバルクラウド基盤連携技術フォーラム」(GICTF)は,何を目指すのか。GICTFの会長に就いた慶應義塾大学の青山教授にフォーラムの狙いと企業ユーザーの今後の考え方を聞いた。併せて,青山教授がかかわるNwGN(新世代ネットワーク)の検討の状況と方向性についても聞いている。
日本の大手企業でもクラウドを採用する企業が現われている。こうした中,「グローバルクラウド基盤連携技術フォーラム」(GICTF)を設立した経緯は。
日本メーカーはもの造りに強く,ターゲットが明確になったときにそれを実現する力を持っている。しかし先頭に立ってコンセプトやアーキテクチャを発信し,標準化していく力はそれほど強くない。
こうした中でクラウド・コンピューティングは,複数のサーバーを連携させてどういうビジネスを提供するかを考えないといけない。GICTFではこの問題を参加企業と検討していく。
GICTFの構成と議論の方向性は。
GICTFは技術部会と応用部会で構成しているが,10月上旬に第1回の合同部会と技術部会を実施したところだ。参加企業にはNTTやKDDIといった通信事業者のほか,日本のメーカー,マイクロソフトやシスコなど海外主要ベンダーの日本法人などがいて,総務省からバックアップを受けている。
ただこの場で日本国内だけの標準を作っても意味がない。OGF(オープン・グリッド・フォーラム)など海外のフォーラムなどと連携して,技術や特許などで何らかのデファクトを取るようにしていきたい。
しかし米グーグルや米アマゾン・ドットコムなどはフォーラムに属するよりも自身でデファクトを取る動きをしている。
確かに海外の先進的な事業者はそうした考えに見える。ただ日本のメーカーが彼らに対抗していくには,協力体制を組んでいくしかないだろう。
ユーザー企業はクラウドにコストダウンを期待しているようだが,ミッション・クリティカルな業務には使いづらい面もある。ユーザー企業はこれからクラウドをどう使えば良いのか。
確かにユーザー企業にとっては経済性が大きなテーマとなるだろう。さらに,クラウドのメリットは,ユーザーが常にネットワーク経由で最新の技術や機能を利用できるところにある。
ただその一方で,システムとしての信頼性と,情報漏えいがないかというセキュリティの問題が浮上している。このため,企業としては特定の業務を任せるあたりから,クラウドにアプローチしていくだろう。
この動きが広がると,クラウドの利用法を企業に提案するコンサルタントの役割が重要になる。
企業のWANでも,専用線やVPN(仮想閉域網)で実現していたものを,用途に応じて一部をインターネットVPNで置き換えるといった動きが広がっている。
クラウドの導入が広がっているのも,同じ動きと考えて良い。そうなると次にユーザーにとって問題となるのは,複数のクラウド間でインタフェースが違うことだ。
ここが,少なくともデータをやり取りできるくらいに標準化されないと,一つのサービスに固定されて,ほかに乗り換えられなくなる。ユーザーにしてみると複数の事業者を比較して,料金や機能に応じて別のものに移れるといった選択可能性が担保されていることへのニーズがあるだろう。
先行する事業者は独自のインフラに囲い込もうとする動きを取るだろうが,インターネットがオープン性を背景に成功したことを考えれば,互いに連携する動きも育っていく。こうした中でGICTFの役割は,複数のクラウドを選択できる可能性を確保することと,クラウドを相互に接続する環境を整えてその信頼性を保証すること。これにより,複数のクラウドが連携する「インタークラウド」環境を実現できる。
複数の事業者のクラウド同士が相互接続する将来像はまだ先では。
我々が考えるインタークラウドの究極の姿は,特定のサーバーとユーザーのパソコンがやり取りする現在のクライアント・サーバー・モデルではなく,すべてのユーザーがクラウド環境を利用する状況だ。
コンピュータの標準的な利用環境が根本から変わってしまうことになり,特定のクラウドが独自にサービスを提供するわけにはいかなくなる。既にそういった意識がある企業や大学,研究機関などでクラウドの価値を高める活動が始まっている。
デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構 教授
青山 友紀(あおやま・とものり)氏
(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2009年10月23日)