[後編]近畿圏で光設備競争の成果を実証,インフラ弱いとサービスも生まれぬ

企業向けサービスについて,クラウド・コンピューティングに関する取り組みは。

 社内で検討は進めているが,具体的に発表できるところまでは煮詰まっていない。データ・センターは大阪市内の梅田と心斎橋,京都などに置いて,ホスティングやハウジングのサービスを手がけている。

 通信のサービス化が進んでいる状況を見て,我々もクラウドを取り込んでいく。回線を持つ事業者である以上,回線から連続性を持って上のレイヤーに上がるアプローチを取る。このため「SaaS」(software as a service)よりも,プラットフォームを提供する「PaaS」やハードウエアを提供する「HaaS」との親和性が高い。

 アプリケーションだけを利用するなら,サーバーがどこにあっても良い時代が来るかもしれない。ただ我々は地域に根ざした事業を展開している。関西地域に拠点を置いて,そこで回線を使ってもらって,最終的にいろいろなものをサービス化していく。

ユーザー企業へのアプローチで工夫は。

 通信事業者単独ではアプリケーションの提供まで到達するのは難しい。そのためユーザー企業と密接にかかわっているSI(システム・インテグレータ)とのタイアップを考えている。

 独自のシステムを構築する場合が多い大企業に対しては,それを構築したSIと組むことができれば,我々のプラットフォームやハードウエアをサービスとして提供できるだろう。

6月に法人向けインターネット接続サービスで稼働率保証を導入した。

藤野 隆雄(ふじの・たかお)氏
写真:太田 未来子

 システムを入れ替えたことで,稼働率実績で99.999%を社内的に達成できるようになった。これで自信が持てたため,SLA(service level agreement)としてユーザーに99.99%の稼働率を約束し,1カ月間の実績がこの数値を下回った場合に料金の一部を返還するサービスを提供することにした。値上げではなく,信頼性が高いことをアピールして,サービスの値打ちを高めたものだ。

 信頼性を高めたサービスは,ユーザーからの要望に応えて提供を始めた。一方で,コスト重視のユーザーには,SLAはないけれども安いメニューも用意する。インターネット接続に信頼性重視とコスト重視のメニューがあり,ユーザーが選択できる格好にした。

この経済環境の下,コスト重視を望むユーザーが多いのではないか。

 全体的な傾向としては安い料金を使おうとする傾向がある。ただコスト重視のサービスのリスクもしっかり説明し,理解したうえでサービスを選んでもらっている。

総務大臣が代わって総務省の競争政策に変化がありそうだが,どう見ているか。

 海外との競争を重視するが故にNTTを一つにまとめて国際競争力を付け,その一方で国内の競争が軽視される,というのであれば賛同できない。海外に目が行くと,国内を踏み台にして海外のサービスを安くするという方向にぶれがちになる。今の国内の競争状況を維持していくことが重要になる。

 近畿は,競争による効果を実証している地域と言える。他の地域に比べてNTTの光ファイバのシェアが低く,光ファイバの普及率が高い。どちらも激しい競争の結果であり,この状況をないがしろにしないでほしい。

その一方で設備を打つことに積極的でない事業者もいる。

 設備投資をするインセンティブがなくなる政策は健全な競争を生まない。設備があってその上にサービスが乗る以上,設備をぜい弱にするとサービスの多様性はなくなる。

 海外を中心にインフラを軽視する動きが見えているというが,これは絶対に誤っている。通信事業には社会のインフラを担うという側面がある。こうした覚悟のある企業でないと通信事業はやってはいけないと思う。

光ファイバ設備が同じ地域に何本もあるのは非効率という意見がある。NTTの光ファイバ部門を公社化する案もある。

 公社という体制がベストかどうかには疑問がある。民間のアグレッシブな発想を導入するのが難しいだろう。

 インフラを使うという視点だけになると,設備投資の競争がおかしくなる。先行投資をして,投資負担を理解したうえでサービスを展開していくことが重要である。

ケイ・オプティコム 代表取締役社長
藤野 隆雄(ふじの・たかお)氏
1949年生まれ。73年3月に大阪大学大学院工学研究科通信工学専攻修士課程修了。同年4月に関西電力に入社。95年6月に研究開発室研究開発副部長。98年6月,情報通信室通信システム部長。2000年6月に副支配人IT戦略グループ チーフマネージャー。2003年6月にケイ・オプティコム取締役,関西電力支配人 経営改革・IT本部副本部長。2007年6月,ケイ・オプティコム監査役,関西電力常務取締役 経営改革・IT本部長。2009年6月にケイ・オプティコム代表取締役社長に就任。趣味はDIYの庭造りと読書。

(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2009年10月8日)