明確なビジョンなしにオープンソースは作れない

 オープンソースのメールクライアント「Thunderbird」が2年半ぶりのメジャーバージョンアップを目前に控えている。mixiやTwitterなどのSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を基盤としたサービスの利用者が急増するなかで、メールなどの利用形態が急速に様変わりしつつある。コミュニティの力を借りながら機能強化を続けるThunderbirdは、その変化にどう立ち向かうのか。米モジラ・メッセージングCEO(最高経営責任者)のデイビッド・アッシャー氏に聞いた。(聞き手は福田 崇男=日経コンピュータ、志度 昌宏=Enterprise Platform編集長、写真は北山 宏一)

日本企業でもGmailなど、Webブラウザを使って利用するクラウド型のメールサービスを採用する動きが出てきた。

 確かに、どこでもブラウザだけで利用できるというメリットはある。モジラ・メッセージングの中でも、GmailやZimbraを使っているエンジニアはいる。だがメールが増えると管理が難しいなどの欠点もある。例えば、飛行機の中ではGmailは使えないだろう。ソフトウエア型のメールクライアントとは補完関係にあると考えている。

 Thunderbirdでは、GoogleカレンダーやGmailのラベルに対応するといった機能強化を予定している。

インターネットメールは、スパムやフィッシングなどの不安要素が多い。他のメッセージサービスに置き換わる可能性があるのではないか。

(写真:北山 宏一)

 不安要素が多いのは、インターネットメールは歴史が長く、利用者が多いためだろう。SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を基盤としたFacebookやTwitterといったサービスでもスパムは増えている。今後が、どうなるかは分からない。

 しかも、これらWeb型のメッセージサービスは、システムが運営会社が一元的に集中管理している。そのようなサービスだけに社会が依存してしまうことには問題がある。やはり、もっとオープンな仕組みが必要だ。

一元管理されているシステムのほうが、セキュリティ対策などは講じやすい。

 それは複雑な問題だ。確かにシステムが一元化され、クローズドであるほうが良い面もある。100万ものサーバーに対して、セキュリティ対策のためのアップデートを実施するのは非常に大きな困難を伴うだろうからだ。だが一方で、重大なセキュリティホールが発生した場合のリスクも大きい。

 オープンであることがよいケースもある。Firefoxを例にとろう。Firefoxはオープンだか、セキュリティが強固なブラウザだ。オープンであるからこそ、重大な脅威が発生する前に問題を修正することが可能になっている。クローズドな環境にあるブラウザでは、こうはいかない。