仮想化技術の利用が本格化してきた。コンピュータリソースを抽象化することで様々なメリットが得られるからだ。仮想化技術をベースにブライベートクラウドを構築する事例も現れている。米ガートナーリサーチのトーマス・ビットマン バイスプレジデント兼最上級アナリストに、仮想化の進行状況やプライベートクラウドの課題を聞いた。(聞き手は森山 徹=日経コンピュータ)

仮想化技術がもたらす価値をどうとらえればよいか。

 仮想化技術はITの近代化を促進する触媒だといえる。仮想化はサーバーの統合を促進し、電力消費を削減したり、サーバーの拡散を抑えたりできる。仮想化技術の導入を機に、オペレーションのプロセスが変わることがポイントだ。仮想化により、アプリケーションやサーバーのデリバリ、変更や機能追加のスピードが格段に上がり、すべてのプロセスの近代化が進む。

サーバー仮想化はどれくらい普及してきたか。

 メインフレームの世界では普及率は100%、UNIXは6、7年前から仮想化技術が入ってきて、サーバー統合が進んだ。IAサーバーの事情は異なる。Windowsを利用するようなシステムでは、1アプリケーションに付き1台のサーバーを割り当ててきたからだ。

 現在、すべてのIAサーバーのワークロードの16%が仮想化されているとみている。まず大企業で採用が始まり、25%程度まで普及してきた。中小企業は5~10%くらいだろう。これまで、中小企業はコストがネックとなり普及が進まなかった。米ヴイエムウェアの仮想化ソフトの価格が高かったからだ。

 しかし、米マイクロソフトのHyper-VやオープソースのXenが出てきたことで、この1年で採用は急速に広がった。世界1400社の中小企業で調べたところ、2008年はほとんど仮想化が進んでいなかった。しかし2009年になり、普及率がかなり上がった、2012年には50%程度まで伸びるだろう。中小企業が仮想化市場の成長エンジンになる。

仮想化の対象が基幹系に広がってきたと感じる。

 大企業はかなり年数をかけて、仮想化の対象を広げてきた。これが第一の波だ。まず、開発とテスト環境を仮想化した。次に、インターネットサーバーやファイルサーバー、ドメインコントローラへと対象を広げ、Windowsのパッケージといったレガシーアプリケーションを加えた。

 最後が、I/O性能が必要なデータベースやトランザクションシステム、そしてメールだ。こうしたシステムは仮想化するのが難しかった。最近、ハードとソフトがともに進化したので性能が出せるようになってきた。

 先に述べたように今は、中小企業に仮想化の波がきている。中小企業もクリティカルではないサーバーから始め、I/Oを食うアプリケーションに適用していく。ここ2、3カ月で見えたトレンドで興味深いのは、Exchangeの仮想化について、我々への問い合わせ件数がかつての4倍に増えていることだ。