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 プログラミング言語COBOLが開発されてから今年で50周年となる。業務システム開発の主役だったのは過去の話となり、今や古臭い技術と扱われることも多い。ユーザー企業でもCOBOLプログラムは保守コストばかりかかる困り者と見なされている。こうした風評に対し、オープンシステムで動作するCOBOL開発・実行環境ベンダーである英マイクロフォーカスのスチュアート・マギルCTOは「COBOLはクラウド時代にも現役のプログラミング言語として生き残る」と断言する。
(聞き手は白井良=日経コンピュータ)

COBOL生誕50周年とのことだが、「COBOLは死に筋の技術」と言われてからも10年くらい経っている。

 動いているCOBOLプログラムは全世界で2400億行あり、年間30億行が追加されている。全世界で200万人のCOBOLプログラマがいる。フォーチュン500のうち90%の企業はCOBOLプログラムを使っている。欧米日のように古くからコンピュータを使っている地域だけでなく、アジア諸国でもCOBOLの活用は広がっている。2009年は最も多くのCOBOLコードが書かれた年でもあった。

 COBOLプログラムについて指摘される問題点は、システムを更新しづらいこと、それによって保守に余計なコストがかかることなどだ。しかし、これらはメインフレームの問題であって、COBOLの問題ではない。ユーザーにとって本当に大事なのはソフト資産だ。

 3年前は「メインフレームは今後も残りますか」と聞かれれば「必ず残る」と答えていた。しかし、今では意見が変わった。COBOLのソフト資産はそのままで、システムをメインフレームからWindowsやUNIX/Linuxプラットフォームに切り替えるモダナイゼーション(近代化)が進んできた。当然、これによってハードウエアのコストは下がる。最新のシステムを使うことで処理速度も上げられる。さらに開発環境やテスト環境が改善されて、プログラムの開発効率を高められる。

 現在の不況下ではコスト削減は重要な経営課題だ。モダナイゼーションによって40%程度のコスト削減が可能だ。企業によっては90%もの削減効果が出たところもあった。そして、不況を抜けると今度はビジネスの俊敏性が重要になる。そうしたニーズにもCOBOL資産のモダナイゼーションは効果がある。

具体的にはどのような効果があるのか。

 我々の顧客の例としては小売大手の米テスコがある。同社はCOBOLプログラムで書いた商品補充システムを長年メインフレーム上で動かしていた。それを当社の技術を使って既存のCOBOL資産をほぼそのままにオープンシステムに乗り換えた。これで65%のコスト削減になった。プロジェクトには6カ月かかった。

 それによりビジネスの俊敏性を手に入れた。カンボジアやトルコにも進出した際、本国と同様のプラットフォームを安価かつ短期間に準備できた。システム運用をグローバルに展開するのにかかった時間はわずか4週間だ。メインフレームのままだったら、各国ごとに新しいメインフレームが必要だった。それではコストがかかるし、なによりもビジネスの俊敏性が失われる。

クラウドコンピューティングに代表されるように「所有から利用へ」という流れは強い。COBOLプログラムはそれに付いていけるのか。

 実はパブリッククラウド上で動いているCOBOLプログラムはすでにある。当社はマイクロソフトの「Windows Azure」のラウンチパートナーでもある。法人にとって、クラウドがCOBOL資産を動かすための一つの選択肢になる。

 開発ツールにもクラウドに対応する機能を入れている。開発したプログラムをアマゾンのクラウドサービス上で動かせる仕掛けだ。

若いプログラマにとってCOBOLはエキサイティングな言語になりうるのか。既存のプログラムを保守する仕事ばかりとはならないか。

 確かに若い人はエキサイティングなことしかしたくない。しかし、当社のツールを使えばVisual StudioやEclipsと統合したモダンなCOBOL開発環境を使える。以前にマイクロソフトの技術者3人にこのCOBOL開発環境をデモンストレーションをしたのだが、全員Visual Basicだと思い込んでいた。

 それに、データの出し入れを扱うようなソフトを開発するにはCOBOLはいい言語だ。「COBOL」という名前にマイナスイメージが付いてしまっているのかもしれない。別の何かいい名前はないだろうか。

 既存ソフトの保守だってつまらない仕事ばかりではない。例えば、銀行のシステムを携帯電話から使えるようにする追加開発はよくある。こうしたシステムは何百万人ものユーザーが使う。プログラマにとって、多くの人にアプリケーションを使ってもらうことはうれしいものだ。

 それに若いプログラマも年を取る。長期的にはCOBOLの習得は雇用機会の拡大につながる。System/360時代に作られたプログラムはいまだに現役で動いているが、それを作ったプログラマはすでにマネジャーになっていたり、引退していたりする。こうしたプログラムのモダナイゼーションは世界中で必要になる。つまりCOBOLプログラムは消えないし、それによる仕事は常に存在し続ける。