オプティムは2009年5月にホームICT分野でNTTと業務提携したベンチャー企業。光ファイバの敷設工事で機器設定を自動化するソフトを開発するなど,ネットワーク越しに機器を解析し,パラメータ設定などを施す独自の技術を持つ。ホームICTで目指すビジネスの方向性のほか,今後の事業の展望を菅谷社長に聞いた。
5月に提携するまで,NTTとどうかかわってきたのか。
ユーザーのルーターやパソコンなどを解析し,自動設定する「AIC」(auto intelligent configuration)技術のライセンス提供の話を始めた2005年ころから,NTT東日本との関係が深まった。
NTT東日本はそれまで,光ファイバの開通工事で作業班を2班送り込み,1班に光ファイバの回線工事,もう1班にユーザー宅内のパソコンなどの設定を担当させていた。家庭内ルーターは仕様が標準化されておらず,当時は国内で約300種類のルーターが販売されていた。これらを自動設定しようにも300パターンを用意しなければならず,結局,専門の担当者が作業する必要があった。
我々はほとんどのルーターの設定画面がHTMLで記述されており,テキスト全文検索が可能であるところに目を付けた。例えばPPPoEのIDを設定するには,「PPPoE」という文字列を探し,その隣にブランクのテキスト・ボックスがあればそこに文字を入力し,なければそのリンク先の画面で設定できると推測する。こうしたルーター解析/設定エンジンを開発した。
この仕組みにより,現場の作業は大きく改善できたのか。
担当者は,持参したCD-ROMをパソコンに入れて,7ケタのユーザーIDを入力するだけでよい。ルーターの自動診断/自動設定が可能になったため,回線工事は1班だけで済むようになり,大幅なコスト削減と工期の短縮を実現できた。
NTTから与えられた要件は,“すべての設定が3分以内に終わる”というものだった。当初は時間がかかるアルゴリズムだったが,そこを一気に短縮して採用にこぎつけた。
NTTグループの技術力があれば,自分たちで開発できたはずだが。
我々が開発できたのは,オープンを前提とした技術開発を続けてきたから。垂直統合型ビジネスを組み立ててきたNTTとは,ここに文化の差があったと考えている。
NTTにこのソフトを初めて見せた時は大騒動になった。聞けば,世界中を探したがこうした技術はなかったという。実際にNTT東日本の役員室にルーターを約100台並べて,どれでも自動設定できることを見せるまで,NTTは懐疑的だった。
技術面で他社に勝るポイントは。
クローリングとスコアリング(重み付け)である。以前開発した違法サイトの検出ソフトでは,違法サイトがほかの違法サイトからリンクされている習性を利用した。ここからまず親玉の違法サイトを探し,周辺のサイトを検索するという手法を編み出して精度を高めていった。
こうした技術でオプティムは“家庭内ネットのグーグル”を目指している。米グーグルはWeb上の情報を使ってマーケティングをしているが,家庭のネットワーク内にも機器の情報やユーザーにかかわる情報が埋まっている。この情報を検索することで,ワン・トゥ・ワンでのレコメンドが可能になると考えた。
例えばオプティムの診断ツールをパソコンに設定すると,プリンタのトナー切れを検出して,“トナーを購入しないか”といった提案をしたり,プリンタのドライバのバージョンを確認して,“プリンタの機種が古いので買い替えないか”といった提案をしたりできる。
今回NTTと提携したホームICT分野には,どのような可能性を見ているか。
NTTからは,最も困っているのがユーザーのサポートだと聞いた。インターネットが広く普及したことで,自分で環境を整えられない人もネットを使うようになって,問い合わせの数が増えているというのだ。こうしたニーズを受け,ユーザーをリモートでサポートするサービスを提案した。
今以上に社会でインターネットの重要性が上がると,ユーザー側の環境整備が大変になる。さらにトラブルの際の対応が重要になるだろう。ここにホーム・セキュリティや家電機器の遠隔コントロールなどが連動するようになると,問題はいっそう大きくなる。
菅谷 俊二(すがや・しゅんじ)氏
(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2009年9月11日)