7月1日に下り最大40Mビット/秒の「UQ WiMAX」の有料サービスを始めたUQコミュニケーションズ。スタート当初はエリアが十分ではないなどの問題に直面した。今後計画するエリア展開や速度向上の取り組みに加え,高速化したモバイルが実現する端末の姿や,新しい通信環境に対応したサービス・モデルを田中社長に聞いた。
7月に有料サービスを開始してからこれまでをどう評価する。
UQが現在抱えている課題の上位は,エリア拡大の問題が占めている。有料サービス開始時点で,基地局は予定数に届かなかった。首都圏で基地局を約1500局立てる予定だったが,約1000局にとどまり,大阪は予定の半分程度しか基地局を立てられなかった。
ユーザーからエリアが不十分との指摘があると予想が付いたので,パフォーマンスやサービスエリア確認のため端末を貸し出す「Try WiMAX」を始めた。サービスを試したが加入しなかったユーザーの約8割は,エリアに問題があることを理由に挙げたという。
エリア展開が遅れた最大の理由は。
いくつかの読み間違いがあった。一つは基地局設置先との交渉。例えば分譲マンションの屋上に設置を予定していた基地局の工事遅れがある。マンションの総会が5~6月に集中していたため,了解を取れないことが多かった。
ユーザーが多い都心部は,基地局に適した場所が少なかった。第3世代携帯電話(3G)のアンテナから距離を離さなくてはいけないという「離隔」が必要となり,予定通りに基地局を置けなかったところもある。
初期トラブルも多かった。オペレーションが落ち着いておらず,今もハードとソフトのセットアップを抱えている。ただ最近は伝送速度向上のチューニングをしたこともあって,実際の通信速度が上がってきているはずだ。
今後のエリア展開の計画は。年度末に数十万契約という目標は達成できるか。
今年秋に予定されているWindows 7商戦に向け,対応を急いでいる。首都圏では国道16号線の内側で,面的に7~8割をカバーしないといけないだろう。基地局は今までの遅れを取り戻しつつ,年度内に6000局を設置する。
目標の2けた万契約は達成できると思っているが,右肩上がりでユーザーが増えることが条件だ。
下り最大速度が40Mビット/秒という高速化によるメリットは何か。
従来の端末はクライアント/サーバー型のアプリケーションを使っていた。回線帯域が太くなって,クラウド上にあるアプリケーションを使う方式に移行しても,遅延が気にならなくなった。
これから高速回線を前提に出てくるMID(mobile internet device)などの端末は,クラウドにあるアプリケーションをネットワーク越しに自由に使うことが前提となるだろう。
そうなると端末のOSや求められる処理性能,そして形状も変わるはず。
無線インフラは,固定通信がISDNからADSLに移る時代に相当する,大きな節目を迎えている。3Gの現行技術が高速化の限界に来た中,UQは初めてOFDM(orthogonal frequency division multiplexing)を採り入れた。これによりいっそうの高速化が進む。
そうなると,端末も変わってくるだろう。高速なデータ・ストリームを処理でき,画面表示は速いが,電力を消費しない,高速Javaマシンのような端末が出て来るかもしれない。
LTE(long term evolution)で携帯電話が高速化すると,追い付かれるのでは。
UQは次にIEEE 802.16mを導入する計画を持っている。来年ころから実証実験をしたいと考えている。
無線サービスの最大速度はどれもベストな環境下での値。リソースを共有するため,実際の最大速度は落ちてくる。とすると次に重要になるのは,ネットワークの容量であり遅延である。これらは新しい技術の方が有利だ。
田中 孝司(たなか・たかし)氏
(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2009年8月18日)