帳票とBIの2本柱で成長 世界と勝負へ1000億円目指す

2004年の誕生以来、帳票開発基盤とBI(ビジネスインテリジェンス)ツールの二本柱で成長してきた。売上高は81億円に達する。純国産製品が押されがちなソフト市場で強さが際立つ。二つのソフトに共通するのは、利用者にとっての使いやすさだ。今後は株式を上場し、世界で勝負するソフト会社を目指す。

誕生してから5年で、40億円程度だった売上高が2倍の81億円にまで伸びました。営業利益は20億円を超えます。

 当社の売り上げの7割くらいは、企業向けの帳票の開発基盤であるSuper Visual Formade(SVF)からのもので、もう一つの柱がBIツールのDr.Sum EAです。

 SVFを出荷したのは1995年ですが、オープン系システムが広がるにつれ、売り上げが急速に伸び始めました。日本企業の帳票に対する細かな要望に応えるツールなら、きっとニーズが強いはずだと考えたのが開発のきっかけです。

 現在は、企業の情報出力に関連した、さまざまな用途で利用されています。帳票の開発ツールの部分ではなく、実行系のミドルウエアが販売の中心になりました。

 紙に加えて電子化した帳票が使える点も、評価されているのでしょう。

Dr.Sumの名前を聞く機会が増えました。

 出荷開始は2001年ですが、当社が誕生したころは、それほど売り上げが大きかったわけではありません。数年で成長したのです。

 帳票ベンダーとして、利用部門に優しいレポーティングツール、見たい軸で常に情報を分析できるソフトを顧客が求めていると考えて商品化しました。売ってみたら、思った以上にニーズが強かったわけです。

 積極的に投資し、機能の強化も継続しています。現在ではBIの専用ソフトと比較しても十分に対抗できるものになっている。サーバーの出荷本数では国内で1位という調査結果もあります。

導入企業数も増えています。

 SVFが1万6000社、Dr.Sumが2400社です。SVFは比較的、大規模なシステムで用いられることが多いですね。Dr.Sumについては、中堅企業を含め幅広いお客様がいらっしゃいます。

 ソフト会社が成長していくときによく壁になるのが、2番目のヒット商品です。一度は成功しても、2度目以降は苦戦しがちなのです。

 ありがたいことに、Dr.Sumは損益分岐点を単体でも超えました。利用部門の社員が使うソフトなので、Dr.Sumには当社の知名度を向上させる効果もあります。

SVFとDr.Sumを合わせたソリューションを展開され始めたと聞きました。

 企業のアウトプット全般を改革し、コスト削減と現場の生産性向上を図る「OPM(アウトプット・パフォーマンス・マネジメント)」というソリューションがそうです。

 帳票類などの紙の出力を減らしたりするのはもちろん、帳票作成のためのサーバーを統合したりします。こういったことをトータルで提案していくのです。

 現在の企業のコスト削減意欲は非常に強い。4月に正式発表したのですが、手応えを感じています。

SVFやDr.Sumに続く柱を作りたいのではありませんか。

内野 弘幸(うちの ひろゆき)氏
写真・柳生 貴也

 あるに越したことはありませんが、作って売ればいいというものではない。製品が増えれば当然、リソースが分散します。常に種はまいていますが、まだ事業化はできていませんね。

 今のところは、2本柱の売り上げの拡大を優先させるつもりです。

 企業には、まだメインフレームで動作するシステムが残っています。オープン系へ移行するのならSVFを使うのが効率的です。

 オープン系だってスクラッチで帳票部分を開発したシステムがいくつもある。こういったところでSVFを使うと、大幅なコスト削減が可能になります。

 Dr.Sumは伸び盛りです。海外でも展開していきます。6月に中国に現地法人を作りました。9月から実際の販売を開始します。

SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)には、どう取り組みますか。

 ERP(統合基幹業務システム)パッケージのようなアプリケーションの会社なら、製品をそのままSaaS化すればよいのでしょうが、当社のようなミドルウエアのベンダーには難しい。当社では帳票SaaSと呼んでいますが、他のベンダーのSaaSに組み合わせて使うものが、現時点では中心になっています。

 例えば、セールスフォース・ドットコムのSaaSアプリケーションのデータを、SaaS形式の帳票サーバーを使って出力する、といったものがそうです。企業内SaaS向けのミドルウエアも用意しています。

 ただし将来的には、何らかのソリューションを展開できればという気持ちはあります。

SaaSを手掛けると、販売パートナーとの関係が変わりませんか。

 これまでパッケージで販売していたものを、そのままSaaSに変えるのならそうかもしれません。ですが、これまでとは違う製品でSaaSに乗り出すのなら話は違うでしょう。

 帳票やBIが関係するものにはなるでしょうが、全くの新規事業として、始めることになると思います。ただし、いつになるかは分かりません。

 ミドルウエアや開発ツールといったプロダクトは、基本的にはパートナーを通じた間接販売で提供し続けます。

パートナーとの販売強化に力を入れていらっしゃいます。

 会社ができて割とすぐに、WARP(ワープ:WingArc Technologies Relationship Program)という、パートナー向けのプログラムを立ち上げました。今では、SVFとDr.Sumを合わせて130社くらいのパートナーがいらっしゃいます。

 情報の提供やトレーニングを続けることで、パートナーとの距離が近付いたと実感しています。ある程度の数の企業とはお付き合いできるようになりました。

 当面は社数を増やすよりも、現在のパートナーとの関係をさらに深めたいですね。

現在の業況についてお聞かせ下さい。

 残念ながら去年の秋くらいから不況の影響を受けています。基幹系システムへの投資が手控えられるなかで、SVFの販売が思ったように進まなくなりました。前期(2009年2月期)は、前年度比でほぼ横ばいの結果です。

 今期の業績もかなり保守的に見ています。売り上げも営業利益も微増の計画です。

 今年は足腰を鍛える時期と考え、来年以降、海外展開を視野に入れて売り上げを伸ばしていくつもりです。

足腰を鍛えるというのは、具体的には何を指すのですか。

 社員一人ひとりの能力やスキルの向上、パートナー制度の見直し、製品の品質向上などを推し進めるということです。サポートも強化できればと考えています。

現在の社員数はどのくらいですか。

 全社で200人ほどです。製品の開発は関連会社が担当しています。そこにいる開発部隊を合わせると、350人くらいになるでしょうか。

企業としてはどのくらいの規模を目指していますか。

 当面は売上高で100億円を超すことですが、これは一つの通過点です。ソフト会社として、世界の市場で勝負するのに必要な規模を考えると、最低でも1000億円くらいの売り上げがほしい。いつかは実現させたいですね。

 会社の設立以来、株式上場をずっと目指していますが、世界に打って出るための力を付けるのが目的です。

ウイングアークテクノロジーズ 代表取締役社長
内野 弘幸(うちの ひろゆき)氏
1956年生まれ。79年に明治学院大学経済学部を卒業し、オフコンの営業やSEに従事。その後、パッケージビジネスを手掛ていたソフト開発会社へ入社する。92年に翼システムに入社し、帳票ツールビジネスなどに携わる。2004年のウイングアークテクノロジーズの誕生に伴って代表取締役社長に就任し、現在に至る。

(聞き手は,中村 建助=日経ソリューションビジネス編集長,取材日:2009年8月19日)