企業ユーザーに対してはどう展開するのか。NTTデータとNTTコミュニケーションズ,NTT東西の役割分担は。
大企業から中堅企業はNTTデータあるいはNTTコミュニケーションズ(NTTコム)が担当する。NTT東西がかかわるのは,それよりも小さい個人事業主やSOHO(small office,home office)への展開になる。
NTTデータとNTTコムはともにプラットフォームを検討し始めていたため,「SaaS基盤共通機能群」を共同で開発させることにした。今後両社は,それぞれの強みを生かしてビジネスを展開するだろう。
SaaS基盤共通機能群に続く展開にはどのような構想があるのか。
SaaS共通基盤に載せようという「SaaSレディ」の状態にあるものが,50社150アプリケーションくらいある。そういうものがSaaS基盤で目に見えた形で展開していく。
例えば,線路や土木,電柱の管理のために持っている地図情報のビジネス展開がある。こうしたデータを地図配信プラットフォームと連携させてGIS(geographic information system)SaaSとして公開できる。
SaaSの各種サービスを展開する事業体は,グループ会社のNTT-MEやNTTネオメイトなどになる。これら各社の情報を持ち株会社が共有してハンドリングする。マイクロソフトなど海外の事業者がNTTと組みたいという場合には,持ち株会社が対応する。
私は上位レイヤー・サービスを展開するにはアライアンスが重要と言ってきた。アライアンスの相手は,以前なら通信機器メーカーやコンピュータ・メーカーなどが中心だったが,今後は例えば住宅会社や家電メーカー,流通事業者などが考えられる。
大きい企業に限らずベンチャーで技術を持っている会社もありえる。NTTがアライアンスを組むとなると,いろいろな企業から一緒にやろうと声がかかるはずだ。今後は,使いやすいアプリケーションにしつらえていくことが重要になるだろう。
そのためには,NTTの内部も変わらないといけないのでは。
何かあったら夜中でも駆け付けて,通信を守るというDNAは変えてはいけない。ただ今後のビジネス展開に当たっては,ユーザー目線,アライアンスあるいはコラボレーション,グローバルが非常に重要になる。
さらに“チャレンジング”でないと,ビジネスは拡大しない。「サービス創造グループ」と言うからには,マインドの変化や風土変革がNTTグループの内部に必要になるだろう。
その一方で,金額はまだ小さいが,インベストメント・ファンドを作って出資する動きがある。5月にはホームICT技術を持つ「オプティム」というベンチャー企業に出資した。
この会社の技術とグループ内の研究所の技術を組み合わせ,技術とビジネスをマッチングさせていく取り組みを始めた。
このホームICT分野は今後有望な市場と考えているのか。
パソコンにかかわるリモート・メンテナンス・サービスは,既にNTT東日本で100万契約を超えている。こうした機能をホーム・ゲートウエイの中に持つことで,ユーザー側の状況を診断しやすくなる。これらの技術を駆使して家庭向けのホームICTなどを展開できると考えている。
現時点で既に1200万近い光ネットワークが基盤として整備されている。基盤をうまく使う意味でも,ホームICTが重要な役割を果たすだろう。
ホームICT分野は,SaaSの次に力を入れている。タスクフォースを立ち上げて,NTT東西,NTTコム,NTTドコモを含めて展開する。ここではホーム・ゲートウエイの仕様はどうすべきか,あるいはどういうサービスがいいのかといった議論をする。例えばリモート・メンテナンスの対象を,パソコンだけではなくIPTVや情報機器に展開するといった検討ができる。
NTTとしての強みが安心/安全,セキュリティならば,電子政府など公共サービスへの展開もあるのでは。
電子政府は,最優先に位置付けている。巨大なコンピュータではなくクラウドを使うなら,信頼性の高い通信事業者のものを使うよう提案する。このために重要な技術となるのが,CBoC(Common IT Bases over Cloud Computing)である。この技術を電子政府や電子自治体,あるいは霞が関クラウドへ適応させる。
クラウドとNTT東西のNGN(次世代ネットワーク),NTTドコモが構築中のLTE(long term evolu-tion)網とのかかわりは。
クラウドのセキュリティ・レベルを上げるには,個人認証ができるNGNが有効に使える。NGNはセキュリティ機能を備えた品質の高い情報通信基盤であり,その上に上位レイヤー・サービスがあるという格好になる。
LTE網はNGNとは別のネットワークとしてあって,それぞれを上位のクラウドから使うというイメージだ。
宇治 則孝(うじ・のりたか)氏
(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2009年8月6日)