[前編]付加価値を生むクラウドを展開,高信頼性や安心/安全に軸足置く

NTTがグループを挙げて「クラウド・コンピューティング」の事業化に向けた動きを進める中,幹部は通信事業者としてクラウドをどう位置付け,どのような事業モデルに乗せようとしているのか。グループ内のクラウド提唱の中心人物である宇治副社長に,経営戦略に絡めた今後の事業展開や事業会社の役割分担,さらなるサービス創造拡大のための取り組みを聞いた。

通信事業者であるNTTにとってのクラウド・コンピューティングの定義とは。

宇治 則孝(うじ・のりたか)氏
写真:的野 弘路

 情報通信基盤の上で展開する上位レイヤー・サービスをクラウドと位置付けている。その中はSaaS(software as a service)だけでなく,PaaS(Pはplatform)やHaaS(Hはhardware)などのレベルに分かれる。通信事業者であるNTTが強みを持つのは,データ・センターを中心にしたHaaSと,その上にアプリケーションが載るPaaSだろう。

 クラウドは本来,米グーグルや米アマゾン・ドットコムなどが始めたサービス。ただ我々は通信事業者という成り立ちがあるため,高い信頼性やセキュリティの確保,安心/安全に軸足を置いたサービスを展開する。

 特に日本のユーザーは,きめ細かく品質が高く,セキュリティが確保されたサービスを求める傾向がある。こうしたユーザーに向けて展開していく。

通信事業者としては,プラットフォーム部分の強化を意識をしているのか。

 それはある。回線も高度化を続けているが,それに加えてプラットフォームやサービスといった付加価値を生み出す部分を広げる必要がある。NTTが昨年公表した中期経営戦略「サービス創造グループを目指して」でも,そういったメッセージを出している。その中で,クラウドは重要な要素となる。

 ここにはネットワークはNTTがきちんと構築するが,その上のアプリケーションやサービスは,いろいろな企業と一緒に作っていくという考え方が前提にある。アプリケーション開発にかかわる企業に参加してもらう場作りのために,プラットフォームが重要なビジネス領域となる。

クラウド・コンピューティングではどのように収益を上げようというのか。

 まず上位レイヤー・サービスが拡大すると,ネットワークのユーザーが増えるというベーシックな収益拡大がある。加えてプラットフォームの利用料による収益,そしてNTT自らが提供するアプリケーションからの収益も見込める。

 さらにプラットフォームを活用したソリューション・ビジネスがある。例えばクラウドをパブリックとプライベートに分け,プライベート・クラウドを企業に提供するビジネスなどだ。

 ただし収益はおそらくネットワークが大きい。単にインターネットを速くしたい,あるいはひかり電話やIPTVを使いたいという光ファイバのユーザーが多いからだ。

中期経営計画では,2012年にソリューション+新分野からの収益が35%を占め,レガシー系を上回ることになっている。

 当初,プラットフォームから上げられる利用料は大きな規模にならないが,周辺のネットワークやアプリケーション,ソリューションが大きくなると見ている。ハード/ソフトを持つ時代から使う時代,あるいは自分のところにある時代から,ネットワークを通じて使うという時代の中で,様々な市場が派生してくるだろう。

 既に「SaaS over NGN」という構想で展開しているプロジェクトは,開発から営業に移っている。ここではどういうサービスがユーザーに求められるのかというように,回線を売るのではなく,サービスを提案する形になっている。

NTT 代表取締役副社長
宇治 則孝(うじ・のりたか)氏
1949年3月,大阪府出身。1973年,京都大学工学部修士課程(電気系)修了。同年,日本電信電話公社入社。総裁室企画室にてNTT民営化関連業務,新規事業開発業務を担当後,88年NTTデータに。新世代情報サービス事業本部長,経営企画部長,法人分野の事業本部長などを経て,2005年代表取締役常務。07年6月にNTTの代表取締役副社長となり,現在に至る。趣味はゴルフ,テニス,飲みゅにけーしょん。共著に「進化する企業のしくみ」(2007年10月,PHPビジネス新書)。

(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2009年8月6日)