ソーシャルネットワークが技術者をより革新的にする

 3次元(3D)CADなどを開発・販売する米PTCが、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)などに代表されるソーシャルネットワークを、ものづくりの現場と結びつけるための仕組み作りに取り組んでいる。一企業/組織の枠を超えて、経験やノウハウを共有できれば、技術者は今まで以上に革新的な役割を果たせるという。PTCが考える、これからのものづくりなどについて、本社のジェームス・ヘプルマン社長 兼 COO(最高執行責任者)に聞いた。(聞き手は志度 昌宏=Enterprise Platform編集長、写真は中島 正之)

「ソーシャル製品開発」を提唱しているが、それは技術者にとって“楽しい”環境になるのか?

 ソーシャルネットワーキングといったテクノロジーを採り入れた環境は、個々の技術者を支援し、もっと革新的な仕事や製品作りに取り組んでもらうための役割を担えると考えます。

 CADソフトやエンタープライズ用途の製品は、どうしても技術者に押し付けるようなところがあります。すなわち、一人ひとりの技術者が経営層のことをあまり意識しているわけではないし、逆に経営層にしても個々の技術者が言っていることってあまり意識していないということです。ソーシャル製品開発では、その中間に位置する環境を作り出そうとしています。

 少し個人的な話になりますが、私自身が工学系の学部を卒業し、エンジニアであるわけです。そして今、趣味の一つとして4人乗りの飛行機を組み立てています。組み立てキットが売られているのですが、米国の法律は、用意された部品だけで作り上げることを許していません。必要な部品のいくつかは実際に作らなければならないのです。

 当然、自宅で部品を作っていくことは非常に難しい。けれども今は幸運なことにWeb2.0と総称されるテクノロジーがあります。同じように趣味で飛行機を造ろうとしている人たちが世界中から集まり、数百人規模のコミュニティを形成しているのです。何かの問題に直面しても、それぞれが見つけた解決方法をみんなで共有できる世界が存在しているわけです。

ばらばらな情報も集まれば大きな問題を解決できる

 このコミュニティの存在がものすごく大きい。私も何かあれば、すぐそこにアクセスし質問を投げかけて、答えを見つけています。Web2.0という世界なしではもう、飛行機の組み立てなど絶対にできないと言ってもいいぐらいですね。

(写真・中島 正之)

 そのフォーラムをお見せしましょう(席を移動し、自らのノートPCでインターネットにアクセスして画面を見せる)。いろんな分野の質問が出ています。フライトコントロールだったり、エンジンやプロペラだったり、ここでは車のエンジンを積んだ例が紹介されています。こっちでは「キットに付いている部品がおかしいんじゃないか」と言っていますが、「ある文献の2ページ目を見ては」といった意見が寄せられているようです。

 色々な問題が、色々な形で出てきて、それに色々な人間がかかわっている。誰かが問いかけると、ほかの人たちが「こうしたらどうだ」「ああしたらどうだ」と言う。参加者の一人ひとりは、ばらばらな情報を持っていたりしますが、コミュニティがあれば、それらの情報が集まって何か大きな問題を解決できるというわけです。

 企業の設計・開発現場においては、そのプロセスや業務の中身はもっと複雑になっていますし、数百人、数千人といった単位で人々がかかわるようになっています。設計や開発に携わる人たちが、日々の業務において、Web2.0のテクノロジーを同じような形で使えれば、ある問題にぶつかっても簡単に解決できるようになる。私自身がWeb2.0といったテクノロジーやそれを使ったコミュニティをどんどん利用していく中で得た“実感”が、そもそもの出発点になっています。