[後編]ドコモのLTEにDC-HSDPAで対抗,2010年秋には40メガ超サービス

6月に第3.9世代携帯電話システム(3.9G)の免許認定を受けた。LTEの前に,HSPAを高度化したDC-HSDPAを導入する計画を示した理由は。

 イー・モバイルでは40Mビット/秒以上の通信技術を“3.9G”と呼んでいる。技術の成熟度や安定性からみると,最大42Mビット/秒のDC-HSDPAをLTEよりも先に市場に投入できると考えている。

 NTTドコモが2010年12月にLTEを導入することから,これに先行するために2010年秋にDC-HSDPAのサービスを投入したい。LTEも並行して検討を進めているが,導入時期はまだ未定だ。

高速化によって携帯サービスはどのように変わるのか。

 モバイルテレビなど映像サービスが広がると考えるが,インターネットの利用が大部分だろう。

 例えばメールのトラフィックを見ても,デジタルカメラの画像や動画ファイルの送受信が増えているため,年々容量が増している。インターネットのコンテンツも年々重くなっている。通信事業者としては,ネットワークの設備投資を続けるしかない。

3.9Gでは4社にライセンスが与えられ,各社が設備競争を続ける。一方で世界の状況を見ると,事業者間でネットワークの共用が進んでいる。

 エンドユーザーへのサービスを安くするためには,インフラの共用も考える必要がある。他社と共用できる部分は共用しても良いと考えている。その場合は,マーケティングや料金で他社と競争するだけだ。

 日本は海外と異なり,鉄塔を別々に建設して,バックボーンも別に用意するなど無駄が多い。モバイル・ブロードバンドの市場を伸ばすには,コストをもっと安くしなければならない。現在のモバイルの設備コストは,既存の銅線を使えるADSLと比べて1ユーザー当たり5~10倍くらい高い。

携帯電話の接続料が高止まりしている点にも問題があると主張してきた。

エリック・ガン氏
写真:的野 弘路

 音声サービスは,携帯電話の接続料が高いので安くできなかった。そのためデータ通信の分野でしか競争ができなかった面がある。

 今回,総務省が携帯電話の接続料の見直し案を出し,営業費を基本的に排除する方向を示した。しかしこうしたソフト・ランディングの導入の方向性を危惧している。これでは当面,音声分野で価格破壊はできない。

 例えば香港では最近,20香港ドル(約250円)で無料通話分が1000分という,ほとんど無制限に近い音声プランが登場している。無料通話分130分に約6000円も払っている日本とは大違いだ。音声分野で競争を促進するには,エンドユーザー料金を下げるといった具体的な規制が必要だ。

これに関連して,2010年はNTTの組織の見直し議論も控えている。

 携帯電話技術のロードマップを見ると,いずれ無線ブロードバンドと光ファイバが速度面でバッティングする。そうなるとNTTドコモがNTTグループ会社のままでは,おかしな状態に陥る。

 携帯電話の接続料に関しても,NTT東西から見るとNTTドコモの接続料は高いが,グループ内では大きな文句は言えない。私は業界の健全な発展のためには,NTTドコモをNTTグループから資本分割すべきと考えている。

 NTTドコモがグループの資本の下にある現況では,我々がNTTグループに提携サービスを提案しても,NTTドコモに同様の提案をされてしまう。NTTドコモ以外のグループ会社と,イー・モバイル,ソフトバンク,KDDIの取引が活性化すれば,競争は増えるはずだ。NTT東西への規制を強化するよりも,ドコモの資本分割のほうがインパクトがある。

イー・モバイル 代表取締役社長兼COO
エリック・ガン 氏
1963年9月6日香港生まれ。英国籍。1987年に英国国立ロンドン大学 インペリアル・カレッジ卒(化学・経営工学専攻),英国国立ロンドン大学 SOAS学学院卒(日本語コース),英国国立ロンドンビジネススクール卒(投資経営コース)。1988年,岡三インターナショナル入社(調査部アナリスト)。1990年,クラインオート・ベンソン証券入社(調査部シニアアナリスト)。1993年,ゴールドマンサックス証券入社。1999年,通信担当マネージング・ディレクターに就任する。テレコムおよび金融業界の経験は11年にわたり,日本,アジアにおけるトップランクの通信/インターネット分野のアナリストとして活躍。2000年,イー・アクセス代表取締役COOに就任。2003年,同社代表取締役CFO。2005年,イー・アクセス/イー・モバイル代表取締役副社長兼CFO。2007年,イー・モバイル代表取締役社長兼COOに就任。趣味は水泳。

(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2009年7月13日)