[後編]中国仕様のAndroid端末を投入,日本産コンテンツの進出に期待

ユーザーに提供していくサービスは,TD-SCDMAの下でどう変わるのか。

 中国移動で成功しているサービスは音楽ダウンロードで,ユーザー数が3億人,売り上げが年間150億元(約2100億円)になった。この金額は音楽CDや中国の映画業界の売上総額を上回っている。3Gへ移行することによって,さらに新しいサービスを展開できるはずだ。

 この一環で中国移動は,米グーグルのAndroidのOSをベースに「OMS」(Open Mobile System)と呼ぶOSを開発した。ユーザーの声を直接聞く通信事業者である我々が,市場やユーザーに適したプラットフォームを定義したものだ。OMSを搭載した端末を「OPhone(オーフォン)」と呼んでいる。

 OPhoneはメーカーが独自の仕様を取り入れて製造している。メーカーは海外の動きを取り入れるのがうまいとか,インターネットの接続が速いとかいった各自の特徴を生かした端末を開発している。OPhoneの開発は順調で,7月には端末が出荷されるだろう。

OPhoneの下でのアプリケーション展開の方針は。

王 建宙(Wang Jianzhou)氏
写真:的野 弘路

 OPhoneから使えるモバイル・マーケット(MM)を構築する。この中でソフトウエア開発者たちがサービスを提供し,中国移動はユーザーから利用料金の徴収を代行して,提供した会社に配分する。

 この環境で,コンテンツ市場が拡大するだろう。例えばゲームはまだ年間7億元(約100億円)程度の売り上げしかないが,MMによってこれら新分野が成長することを期待している。

 今回,日本の多くのコンテンツ会社と話をした。これは日本の優れたコンテンツを中国で提供したいからだ。それほど中国でも売れそうなコンテンツが日本には数多くある。特に期待できるのはゲームだ。コンテンツ以外では,おサイフケータイが有望なアプリケーションになるとみている。

 MMは米アップルのApp Storeと似ているが,規模ではMMの方が大きい。料金徴収代行をベースとしているのは,中国のユーザーは小額の決済にクレジットカードを使う習慣があまりないから。中国のユーザーがコンテンツに支払うのは,1件当たり1元(約14円),もしくは2元程度だ。

ソフトバンクやボーダフォンと共同で立ち上げたモバイル・ウィジェット用実行環境などの開発組織「JIL」(Joint Innovation Lab)はどこまで進んでいるか。

 JILの目的は,通信事業者3社が共通のニーズを基に端末を開発することだった。スタート直後から反響が大きく,米国のベライゾン・ワイヤレスが参加した後は,4社で運営している。JILでは技術のベースは4社共通のものを開発し,コンテンツやサービスは各社が独自に提供するスタイルを採る。

 従来はメーカーが開発した端末を通信事業者が使ってきたが,JILでは通信事業者が主導して技術のベースを開発している。メーカーはJILを基に,特定の通信事業者に向けて端末を開発するが,開発した端末は中国と日本,欧米の全てのユーザーのニーズに対応している格好になる。

日本の通信事業者やメーカーなどとはこれからどうかかわっていくか。

 日本企業と一緒に仕事をする機会はたくさんある。通信事業者はもとより,今後はシステム・メーカーやインフラ・ベンダーとも,我々のネットワーク構築にかかわる協力ができると考えている。

 日本の端末メーカーが作った端末の機能性やデザイン性は素晴らしいと思う。特に中国では高級感のある端末へのニーズが高まっているので,この市場に参入してほしい。

 中国市場を開拓する際に重要なのは,中国のユーザーが好む製品を出すことだろう。例えばソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズが成功したのは,中国のユーザーのニーズを理解して製品を作ったからだ。

 ソフトウエアでは,多くの携帯電話向けコンテンツ会社に,中国で成功する可能性がある。中国進出で最も良い方法は,コンテンツを合作できるパートナを中国で見つけることだろう。

 今後も日中両国の協力を期待する。その際には相談を繰り返し,オープンなやり取りをすることが重要になる。

中国移動(チャイナ・モバイル) 会長兼CEO
王 建宙(Wang Jianzhou)氏
1985年に浙江大学経営工学部で工学修士号を獲得。香港理工大学から経営学博士号を得た。杭州市電信局副局長および局長,浙江省郵便・電信管理局の副局長,中国政府・郵電部建設企画局長,同・情報産業部企画局長を歴任。中国聯通(元チャイナ・ユニコム)副総裁,総裁兼CEOなどを経て,2004年11月に中国移動の取締役会に加わる。中国移動(China Mobile Communi-cations Corporation)の会長兼CEOのほか,子会社の中国移動(China Mobile Limited)の会長兼CEOも兼務する。

(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2009年6月9日)