中国移動は加入者数が5億に迫る世界最大の携帯電話事業者。第2世代(2G)方式のGSMに加えて,中国独自の第3世代(3G)方式であるTD-SCDMAのサービスを始めた。さらに米グーグルのAndroidをベースとする独自プラットフォームを用意し,ソフトバンクなどと組んでウィジェット実行環境を開発する。王会長兼CEOに,将来展望と日本の通信業界とのかかわりを聞いた。
TD-SCDMAのサービスを始めたが,その後の感触は。
サービスは問題なく提供できている。インフラ建設も順調で,開始時の38都市から,年内には238都市でサービスを提供できるようにする。
総合的に見れば,良いスタートを切れたと思う。2011年までに1200億元(約1兆7000億円)を投資して,中国の全都市でサービスを提供する計画だ。
TD-SCDMAの端末は“1+3 プラン”と呼ぶ方針で開発している。1は携帯端末からインターネットに直接接続できる形態のこと。3はカード式の端末,ネットブック,そして家庭用ゲートウエイである。
TD-SCDMAのサービスでは通信速度が仕様ほど出ていないという声がある。
現在,高速化を進めている。ユーザーが利用するイメージで説明すると,音楽1曲分のデータのダウンロードにGSM方式では1分半程度かかっていたが,TD-SCDMA方式では40秒程度になった。さらに高速なTD-HSDPA方式を使うと15秒程度になる。
TD-SCDMA方式がほかの3G方式と比べて改善の余地があることは認識している。高速なサービスを提供できる方向に少しずつ進んでいる。
GSMからTD-SCDMAへの移行の考え方は。
日本と欧州の通信事業者が3Gを建設した当時と,我々の取り組み手法は異なっている。日本と欧州は,2Gのネットワークとは別に3Gのネットワークを作った。我々の場合はコア・ネットワークを2Gと3Gで共通にして,それぞれの方式の基地局がつながる構成だ。
この方式では,ユーザーがデュアルモードの携帯電話端末を持てば,電話番号やSIMカードを替えずに双方のネットワークを使える。端末はまず3Gでつながるかを探索し,あれば3Gのネットワークに接続するし,なければ2Gに切り替わる。2G端末のユーザーは,そのまま2Gを使い続ける。
デュアルモード端末の価格が安くなれば,ユーザーはスムーズに2Gから3Gへ移行できる。
デュアルモードの端末はどう増やしていくのか。
中国では,ユーザーに通信事業者が端末を販売せず,メーカーが代理店経由で販売するのが一般的だ。そこで我々は3G端末を共同開発するため,6億5000万元(約92億円)のファンドを作った。端末メーカー9社とチップセット・メーカー3社がファンドを落札した。
入札に当たっていくつかの要件を設定した。例えば端末は,高級で多機能のビジネス用フラッグシップ端末と,1000元(約1万4000円)程度の安価な端末を開発するといったものだ。
このスキームの下で,今年は少なくとも1機種を開発し,来年は5機種を開発する。デュアルモード端末のデザインや機能が向上し,価格面で2Gと差がなくなれば,ユーザーはデュアルモードの端末を選ぶようになる。
TD-SCDMAの後に予定するTD-LTE方式への移行の考え方は。
この部分も日本の状況とは異なる。日本で3Gサービスを始めたとき,まだLTEは出現していなかった。このためLTEでは全く新しいネットワークを構築しなくてはいけなかった。
中国移動は3Gを構築したばかりだが,LTEで取り入れられたOFDMA(orthogonal frequency division multiple access)技術を意識している。インフラ・ベンダーには,ハードウエアはそのままでソフトウエアの変更だけで,3GからLTEにスムーズに移行できるように指示している。実際3G用に構築したインフラのハードウエアはLTEに対応している。
ただし,LTEで使う周波数は政府から発表されていない。TD-SCDMAとは別の周波数を使うなら,アンテナは別に必要になる。
LTEのサービスが始まったとしても,当分はTD-SCDMAのアンテナが残る。2Gと3G,そしてLTEが並存することもあるだろう。
王 建宙(Wang Jianzhou)氏
(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2009年6月9日)