緊急支援とITは切り離せない、無線からネットまで自在に使う

 世界中の災害被災地や難民キャンプ、開発途上国を飛び回り、無償の医療サービスを提供する国際非営利組織「国境なき医師団」。彼らが支援活動をするために持ち運ぶのは、医療機器とパソコンや携帯電話などのIT機器だ。この二つはいまや切っても切り離せない関係になっている。(聞き手は福田 崇男=日経コンピュータ、写真は柳生 貴也)

国境なき医師団が活動する地域というと、被災地域や紛争地域。IT機器ばかりでなく通信などのインフラも整っていない。

 国境なき医師団は世界19カ国に支部があり、地震や津波といった大災害時や、国際紛争の際には緊急支援チームを派遣します。その際に必ず我々が持ち込むのがパソコンや通信機器です。各支部には緊急支援用のキットを常備しています。医療器具など、緊急支援に必要な物資をバックパックにまとめています。その中には携帯電話や衛星電話、VHF無線通信機、HF無線通信機も入れてあります。

 携帯電話は、現地で購入したSIMを組み込めばすぐに使えます。アジアやアフリカでは携帯電話のサービスが急速に広がっています。今では避難キャンプでも携帯電話のSIMカードが売られているほどです。

 ただし、まだまだ携帯電話がつながらない地域は多い。衛星電話でさえもつながらないことがあります。もちろん固定電話も通じない。何より衛星電話は高価であるため、導入している地域は多くないのです。

“ネット接続”は支援における革命

 そこで活躍するのが、昔ながらの無線機です。確実に通話が可能です。現地ではこれら複数の技術を組み合わせて、通信手段を確保しています。

(写真・柳生 貴也)

 現地で働くメンバーにとっては、通信手段は安全を確保するために不可欠です。紛争地などでは、メンバー同士の定時連絡を義務付けています。連絡がなければ、何かが起きたとわかる。避難情報なども携帯電話やHF無線を使って伝達することになっています。通信手段を持たないことは、非常に危険なのです。

そのような環境でもデータ通信は可能なのか。

 携帯電話や衛星電話をパソコンに接続すればデータ通信ができます。HF無線機も専用モデムがあればデータ通信に使えます。実際、頻繁に利用しているようです。

 活動する地域からもインターネットに接続できるようになったことは、我々にとっては革命的なことです。特に、国境なき医師団の世界中のメンバーがリアルタイムに情報を交換できる点が大きい。現場の医師が治療中に専門外の症例を診断しなければならなくなった場合に、メールやチャットで専門医に意見を求めることができます。医療サービスのクオリティは間違いなく向上しました。