米Hewlett-Packardは,構成管理や性能監視などを中核にITシステムのライフサイクルを管理する運用管理ソフト群「HP software」を提供している。先月は,財務の観点に立脚した新たなコンセプト「ITFM」(IT Financial Management)を打ち出し,ソフトウエア・パッケージとして発表/出荷した。ITproは,同社でHP softwareの製品担当VPを務めるRamin Sayar氏に,企業のIT投資のあり方を聞いた。
不況のなか,企業のIT投資状況はどうあるべきか。
様々な企業のCIOが「少ないリソースでもっとやる時代」だと語っている。冗長な無駄を省き,効率を上げることに尽力している。マクロなデータで見ても,2007年から2009年にかけて,IT支出は11%~15%減少している。こうした不況下では,勝者と敗者がハッキリと分かれる。確かに危機だが,これを機会と捉えれば,勝者にもなり得る。
顧客のCIOにアドバイスしたいのは,単純なコスト削減では駄目だということ。単純なコスト削減ではなく,IT投資の最適化が求められている。プロジェクトには,延期しても構わないプロジェクトと,コストを投入して積極的に取り組むべきプロジェクトがある。プロジェクトの優先順位を判断して,適切なお金の使い方をするべきなのである。
西暦2000年問題の時にも,ちょっとした不況があった。この不況を乗り越えて業界のリーダーとなることができた企業は,IT投資を最適化できた企業なのである。1998年から2002年にかけて業界のリーダーとして君臨した企業のうち40%は,それ以前はリーダーではなかった。これら新興企業に地位を譲って脱落した企業は,不況時にIT投資を最適化することなく,単なるコスト削減しかしていなかった。
IT投資を,どう最適化すればよいのか。
CIOに提案したいのは,6カ月から12カ月程度で完了する短期・中期のプロジェクトと,18カ月など中長期のプロジェクトに分けて考え,まずは投資を早期に回収できる短期・中期プロジェクトから開始する,というやり方だ。短期・中期プロジェクトは,ITの運用にフォーカスしたプロジェクトが主であり,一方の中長期プロジェクトは,業務改革などにフォーカスしたプロジェクトとなる。
プロセスは,3つのステップで成り立つ。第1ステップとして,現状を分析し,非効率的な分野をリストアップして,改革に取り組む優先順位を付ける。第2ステップとして,6カ月から12カ月で回収可能な活動を実施し,経営者の信頼を得る。第3ステップとして,浮いたコストを利用して,18カ月間ごとにフェーズ分けした業務改革に取り組む。
運用分野で投資を早期に回収できるプロジェクトとして,米Hewlett-Packardでは4つの提案を打ち出している。(1)IT財務管理(ビジネスの優先順位と支出を合わせて資産状況を改善する),(2)仮想化管理(仮想化による管理負荷を削減してメリットを最大化する),(3)自動化(効率化/省力化により運用者/管理者の負荷を削減),(4)管理ソフトウエア統合(サービスデスク/インシデント管理と業務パフォーマンス管理を組み合わせるなど)---である。
IT財務管理についてくわしく教えてほしい。
ITFM(IT Financial Management)と呼ぶソフトウエア・パッケージを用意した。プロジェクトとポートフォリオを管理する「HP Project and Portfolio Management Center」や,IT資産管理の「HP Asset Manager software」,今回ITFMに合わせて新開発したデータ分析ソフト「HP Financial Planning & Analysis software」などで構成する。ITFMのコンサルティング・サービスも用意している。
ITFMでは,情報システムからデータを収集し,分析機能によって,IT投資が適切かどうかを可視化する。スコアカードやリスク表の仕組みを提供し,無駄な投資を把握できるようにする。ダッシュボードや定期レポートによって,IT投資の最適化にかかわる意思決定を支援する。
ITFMの適用事例を紹介しよう。ある顧客は,戦略的ではないプロジェクトへのIT投資を削減することで,1年間で年間IT予算の7.5%を浮かせることに成功した。ある企業は,IT資源の使用率の向上などによってIT資源のプロビジョニング(配置/配備)を適切なレベルに抑え,ライセンス費用を10%から15%削減した。