政治の争点にならないから,官僚が作った文章がそのまま法律になる

津田大介氏

 そういった活動をしていく中で感じたのは,議員の方は高齢の方が多く,パソコンに詳しくない方もたくさんいて,インターネットに対してかなり距離がある。今はTwitterを使いこなす国会議員の方も出てきましたが,そういった一部を除いて,議員とインターネットは遠い。インターネットが政策の論争のポイントにならない。政治的な争点にならないので,官僚が作った文章がそのまま法律になっていく。

 青少年ネット規制法は自民と民主の間で温度差はあったのですが,規制の方向は似ており,結果的に自民党内の調整になってしまった。

 インターネットは生活に根ざした重要なインフラになっており,生活レベルの話だと思います。それを政策の焦点にしたい。インターネット関連の政策にどのような態度をとるかで票が動くようになってほしい。それが根本的な問題意識としてあります。

 そのためにどうするか。今回の衆議院選挙はいいタイミングだと考えました。民主党は公職選挙法に関してはマニフェストで,インターネット選挙活動を解禁しようとしています。そういう方向に動いていくときに,今インターネットで争点になっていることについて,どういう考え方を持っているのか。これをアンケートという形で示して,Web上で検索できるようになることに意味があると思っています。

インターネット・ユーザーは何千万人もいて,きわめて多様です。

 MIAUの中でもずっと悩んでいる問題で,「インターネット・ユーザーとは何か」は規定できないと思っています。僕らはその中のワン・オブ・ゼムであって,すべての意見を集約することは不可能です。設立当初から,インターネット・ユーザーすべてを代表するつもりはありません。いろんな主張を持つインターネット・ユーザー団体が出てきてほしいと思っていたのですが,なかなか出てきてくれない。

物事を変えるには行動しなくちゃいけない

 最初はすべてのユーザーの代表ではないという意味をこめて「インターネット先進ユーザーの会」という名前だったのですが,ものすごく評判が悪くて「『先進』ってなんだ,お前らは選ばれた人間か」っていう批判が来た。それで「インターネットユーザー協会」という名前に変えたんですが,そしたら今度は「お前らをインターネット・ユーザーの代表と認めたつもりはない」みたいに言われるんですよ(笑)。

 MIAUの意見は偏っているかもしれない,というのは自覚しています。でも僕や代表幹事の小寺信良はずっとジャーナリストとして活動していて,自分たちの専門領域に関して言えば,いろんな人たちに取材をして,現場も知っていて,現場の人たちの交流もある中で見えてくる政策的課題もあると思っています。

 論評するのは簡単です。でもそこから先,物事を変えるには行動しなくちゃいけない。誰かがやらなくちゃいけないけど実際には誰もやらない。僕らがうまくやれている自信はないけですけど,それでもほかの人がやらないのだからやらないと,と思ってやっています。

以前,インターネットのユーザーにとって法律は縁遠いものでしたが,そうではなくなってきています。

 去年あたりからそこの分水嶺をちょっと越えたかなという感覚があります。ネット上の名誉毀損などは典型ですね。ブログが炎上して,執拗にコメントを書いていた人物が逮捕されました。今年に入って,違法着うたをアップロードしていた人物だけではなく,掲示板の管理者も逮捕され,さらにレンタル・サーバー業者も逮捕されています。昔だったらこれくらいは大丈夫だったラインが,明らかに変わってきている。

 トータルでいえば現実社会と近くなった。ネットは怖いという問題設定が意味をなさなくなってきています。それゆえ,既存の法律で処理できないネットの案件がすごく多くなっている。どうする,となったときに法律を変えようということになる。どう変えるのか,あるいはどう運用されるのか,眼を光らせておかなければいけない。青少年ネット法の規制のプロセスで浮かび上がってきたことは,かなり象徴的だと思っています。