一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)は衆議院選挙の候補者に情報通信政策課題に関する質問10項目を送付し回答を公開する「MIAU総選挙プロジェクト2009」を行っている。質問は,ネット選挙活動や,医薬品のネット販売規制,コミュニティ・サイト規制,知的財産保護など,ネット・ユーザーの関心が高い問題についての考え方を問うもの。なぜこのような活動を始めたのか。代表理事の津田大介氏に聞いた。

(聞き手は高橋信頼=ITpro編集,矢崎茂明=ITpro編集)


なぜこのような活動を始めたのですか。

 僕が2006年から文化庁の審議会「私的録音録画小委員会」に専門委員として呼ばれたことがひとつのきっかけになっています。

ネット・ユーザーの声を代弁する団体がなかった

一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU) 代表理事 津田大介氏

 僕はそれまでフリーの物書きで,著作権制度とITのかかわりについて書いていたことから専門家として呼ばれたのですが,ほかの委員の構成を見ると,半分は学者で,それ以外は権利者が多い。審議会の性質上,ステークホルダーを全部呼ぶとそうなってしまうのは仕方がないのですが,ユーザーの意見を代表するのは,昔ながらの消費者団体,主婦連のような団体しかない。そういう消費者団体も役割としては重要だと思うのですが,インターネット・ユーザーの意見を声を伝える団体がない。

 審議会の構成上,結論を決めるときはどうしても多数派が強くなってしまいがちになります。僕は著作権法改正のときに「ダウンロード違法化は意味がないし,弊害が多い」と反対していたのですが,結果的には通ってしまった。

 そのプロセス自体は僕も仕方ないと思っている部分もあるのですが,そのときに政策が作られていくプロセスに疑問を持ったんですね。著作権以外にも,インターネットがかかわっている問題はたくさんあって,薬のネット販売の規制などは端的な例ですね。多数の利害関係者がいる中で,既得権益側,声の大きいほうが有利になっている。

 平場(審議会ではない場)で「なぜユーザーの声を政策に反映させないのか」と何人か官僚の方に尋ねたことがあるんですが,彼らの答えは「ユーザーがどこにいるかわからないし,代表がいないから呼べない」と。逆に言えば,そのことが方便としてうまく使われているケースもあるんでしょう。直接的な理由としては,それがMIAUを作るきっかけになりました。ある程度まとまった形の意見を専門家の立場から政策として提案していく1つのハブは作る必要があるだろうと。そういう団体がなかったので,手弁当で団体を作りました。だから,もっと資金力のあるちゃんとした組織ができて,MIAUがそこに吸収されていくという形でもよかったんですよ。でも,なかなかほかにそういう団体はできなかったですね。

 私的録音録画小委員会が終わって僕自身は審議会には呼ばれなくなったのですが,文化庁の著作権の小委員会でフェアユースの議論に関して「ユーザーの意見を聞こう」ということで僕らの団体が呼ばれています。政策決定の現場でものを言えるプラットフォームができたことは,ひとつの成果かなと思っています。

総選挙プロジェクトを始めた理由は。

 インターネット・ユーザーと政治がかかわってくる部分はかなり多い。著作権やネット医薬品販売の規制や携帯,SNSの規制問題。規制することそのものに我々は反対するわけではないですが,内容を見てみるとちょっと行き過ぎじゃないか,過剰じゃないかと思えるところがある。

 個別の事象をもちろんそこに問題があることは確かで,何らかの対処はしなくちゃいけない。けれど,どうせやるのであれば実効性のある方法を考えるべきだと思っていて,それで声を上げたり,シンポジウムを開催したりしてきました。