反対のための団体にはなりたくない

津田大介氏

 MIAUは反対のための団体と思われているふしがあるのですが,僕らは絶対にそうはなりたくないと思っています。「反対するなら対案を示せ」とよく言われますが,僕らはそれなりに対案を出し,対案を議論する場で実際に示しているつもりです。

 ネット規制問題については「安心ネットづくり促進協議会」のワーキンググループに小寺が参加して,児童ポルノ問題についても理事の中川譲が同協議会のワーキンググループに参加し,その中で対案を出しています。

 違法ダウンロード問題の際にも,僕が出ていた審議会では「アップロードの摘発をもっと効率的に行うべきだ」という対案を出したつもりです。実際に現場を取材すると,ネックになっているのはプロバイダ責任法の情報開示手続きの煩雑さにあることが多く,それらを改善する方が実効性がありますから。

 僕らもネット上の違法コンテンツは減らしたいと思っています。しかし,ダウンロード違法化は効果も薄く,悪影響も考えられる。もっと効果のある方法をとりましょうと伝えたかった。でも,僕らだけの話じゃない本質的な問題として,そういう「対案」って,あまりメディアで取り上げられることってないんですよね。そのあたりをどう広めていくかということも課題だと思ってます。

誰かがやらなければいけない

 MIAUは2009年7月に「児童買春・児童ポルノ禁止法についての緊急声明」を公開しましたが,僕らがこの問題に関して最初にユニセフに質問状を出したのは2008年の3月で,そこから継続的にこの問題は追いかけています。突然やり始めたわけではありません。当初は,写真や映像だけでなく絵も含めようという案で,子供の人権を守る目的なら絵まで含めるのはおかしいんじゃないか,という疑問がありました。とはいえ,この問題にMIAUとして関わるべきかどうか,ずいぶん議論しました。下手をすれば「MIAUは児童ポルノ愛好集団だ」という中傷を受けかねないし,実際にネットではそういう批判もありました。

 それでも質問状を送った理由は,誰かが言わないと,絵やマンガも対象になるかもしれないのに,動けるような団体としてそれに反対する勢力がほとんどなかったからです。

 最終的にこの問題にコミットできたのは,2人の娘を持つ代表理事の小寺と,法科大学院に在籍している工藤郁子が,当事の法律案を検討して,問題があるから声をあげようと言ってくれたからです。父親と女性という「当事者」が,これはおかしいと言った。見え方として,これが僕らのギリギリのラインだった。

誰かがやらなくてはいけない,でもなぜ自分たちがやらなければならないと思われたのですか。

 シンプルにいえば,おかしいことが世の中に多すぎると僕が今まで取材してきた中で感じたからです。「この問題を扱うときにこういう意見がないのはおかしいだろう」みたいな。僕自身は確かに偏っているかもしれませんけど,少なくとも議論やプロセスはオープンにバランスをとってほしい。政策を巡る議論をそういう,正常な方向にドライブできないかと思ってMIAUを作ったんです。

 「勝手に問題意識を感じて勝手にやっているだけだろ」と言われればその通りですよ。ただ,「別にお前なんかがやらなくていいよ」と言う人に対しては「じゃああなたがやってくれないかな」って言いたいんでけど,そういう人たちは最初から絶対にやらないからあんまり言ってもしょうがないのかなっていう。

 DIYっぽいですよね。本当,DIYなんですよ。でも,インターネットはDIYの力を最大化できるのがいいところですからね。そこのところは最終的にどこまでもポジティブでありたいです。

このインタビューを読んだ人に実行してほしいことは。

 政治だけじゃなくて我々の生活がどんどん変わっています。今までできたことができなくなったり,逆にできなかったことができるようになったり,今は変わり目で,面白いタイミングだと思っています。そしてコミットするともっと面白くなるよ,と。

コミットすればいい方向に変えることができる

 コミットするための敷居がすごく下がりました。だってTwitterで,議員が「今,国会で…」と実況して,Twitterでの質問に答えてくれたりするわけでしょう。ものすごく豊かな環境になってきている。政治家も地元の有権者の声だけではなく,今まで聞けなかった声が聞けるようになる。政治家もいろんなことを考えているし勉強している。そこにいろんな人たちの問題意識を届けて,言わば国民全員がブレーンになる。インターネットって今は集合知的なところぐらいしかいいところがないわけで,政治にもっとコミットすることで,確実にいい方向に変えることができる。政治の季節が来ているんだと思います。

 MIAUとしては,僕らの活動に不満がある人にはぜひ会員になって手伝ってほしい。インターネットユーザー協会と言いながら,僕らはリアルな活動にすごく意味があると思っています。僕もいろんな人と話したいし,シンポジウムや勉強会に来てもらって,議論していく中で,MIAUの活動の方向性が決まっていくと考えています。

津田大介(つだ だいすけ)氏
インターネットユーザー協会(MIAU) 代表理事
IT・音楽ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。早稲田大学社会科学部卒。2006年より文部科学省文化審議会著作権分科会私的録音録画小委員会専門委員。2007年より文部科学省文化審議会著作権分科会過去の著作物などの保護と利用に関する小委員会専門委員。2007年10月に「インターネット先進ユーザーの会」(現・インターネットユーザー協会)を小寺信良氏らと設立。主な著書に『だれが「音楽」を殺すのか?』(翔泳社),『CONTENT'S FUTURE』(翔泳社)など。Webサイトは音楽配信メモ