Twitter実況で「みんなが知る」ことが見えない圧力になる

津田大介氏

 僕自身が政治にかかわるいちばん最初のきっかけは2004年のレコードの輸入権の議論なのです。あのときは,ネットで騒ぎ出したときにはもう国会に行ってしまって,ほとんど議論する時間がなかった。

 ダウンロード違法化のときは1年間,それなりにいろんな議論があって,多くのユーザーが懸念を表明したことで,実質的にユーザーに配慮した書き方になった。早い段階から議論がオープンになっていて,そこにいろんなステークホルダーやユーザーが議論していくことでバランスがとれたものになると感じています。

 僕は実際に参加してみて,もっと人々のアテンション(興味,関心)を高めなければと思いました。審議会やイベントの実況をTwitterで始めたのもそのためです。今起きていることが1年後,法律になるかもしれない。それをみんなが知っていることが,見えない圧力になるんです。小さな力かもしれないけど,その先に国民の視線があるということを,官僚の人たちも意識せざるを得ない。

 彼らはすごくネットを見ているし,ネットでの批判を前向きに受け取る人もとても多い。僕は多くのインターネットユーザーが,さまざまな問題についてネットで話題にしたり,書いたりすることは,一見効果がわかりづらいですけど,ものすごく意味があることだと思っています。実際に少しずつそういうアクションや意見が官公庁に届き始めているわけですから。ただ,それが国会までは届いていない。なんとかしてもう1つ先,国会にいる議員たちまで届けたい。

 そのために,僕らの限られたリソース何ができるか,と考えて,やったことが今の衆議院選挙の注目されているタイミングでアンケートをすることでした。

 僕らの会計報告を見てもらえばわかるのですが,昨年の収入は200万円しかなく,専任の職員は事務局長の谷分章優1人しかいません。昨年彼に払うことができた給料はわずか120万円ですよ。専任でやってもらっているのに彼の人件費すらちゃんと払えていない。週が安定して,予算があれば,もっとシンポジウムや勉強会を開きたいですし,今回のアンケートにしても僕らが直接送付できているのは東京選挙区だけです。それ以外の選挙区はアンケートを送付してくれるボランティアを募集しています。今参加してくれているボランティアは30名くらいで,まだ全国をカバーするにはほど遠い状況です。

 ただリソースもお金もない割には,おかげさまでメディアで注目される機会は多いですし,批判以上に目に見えない支援や応援も感じます。あとは,それをどう具体的な行動に落とし込んでいくか。それが今後の僕らの課題だと思っています。

 これもよく誤解されているのですが,僕らは決して内輪だけで閉じているつもりはないんです。政治プロジェクトでは政論検索というサイトと協力していますし,青少年ネット規制法のときはWIDEプロジェクトなどと協力して声明を出しました。今回,ドワンゴに協力してもらってニコニコ動画で候補者に送付したものと同じ質問を聞く「インターネットユーザーに10の質問」というアンケートを共同で行い,それには7万5552人が回答してくれました。具体的かつ主体的にアクションを起こしてくれる人たちとは,協力できるポイントで協業を進めていきたいですね。そういう人たちがもっと増えてくれるといいと思います。

規制に反対するだけでなく,一緒に問題を解決しようすることが,結果的にユーザーの権利を守る最良の方法になるのでは。

 確かにコミュニティ・サイトにせよ,実際に深刻な被害にあった人もいます。大きな問題です。