[前編]厳しさが増す通信事業者との競合,協調できるならNTTとも話す

テレビ,インターネット,電話のトリプルプレイで通信事業者との競合が増えたCATV事業者。その一方で,ケーブルテレビ山形がNTT東日本と提携するなど通信事業者と接近する動きもある。さらにCATVとモバイルとの連携が,今後の事業展開に不可欠になってきた。こうしたCATV事業者の考えを,業界最大手のジュピターテレコム(J:COM)の森泉社長に聞いた。

CATV事業者は都市部で通信事業者と,テレビを中心に競合している。

 競合して脅威を感じるのは,自前でネットワークを持つところ。具体的には関西電力系のケイ・オプティコムであり,NTT東西である。

 KDDIも一部のCATV事業者と連携しているが,首都圏と中部圏を除き自前の回線を持たない。サービスを提供する際にネットワークを借りるのでは,経済合理性が薄いので脅威は感じない。

 コストが高い光ファイバを全国に行きわたらせようとするNTT東西の考えは,かなり積極的と見ている。だから目標が3000万世帯から2000万世帯に下がったことに,あまり驚きはない。

 ただ大都市圏で営業をしているJ:COMにとっては,NTT東西が光ファイバを張れるすべてのエリアで競合する。関東ではNTT東日本の影響が出ており,競合はさらに激烈になる。

その対抗策は,どのようなものか。

森泉 知行(もりいずみ・ともゆき)氏
写真:的野 弘路

 とても難しい。現在はCATV業界が多チャンネル市場の1000万世帯のうちの7割を押さえている。この市場が成長するなら,競争があってもよい。5~10年のうちにユーザーが2000万世帯まで増え,増加した分を取り合うなら業界全体のプラスとなる。

 しかし現在の売り方は,例えば家電量販店でユーザーに“CATVの多チャンネルは料金が高い。地上波の再送信で十分”と言ってFTTHに切り替えさせる動きがある。これでは市場は大きくならない。

 事実関係を調査中だが,通信事業者がCATV事業者には難しい金額でキャッシュバックをしていたり,テレビやパソコン以外の商品でもその対象とする話があると聞いている。それが事実なら,CATV事業者の連盟から総務省に話をして,公正な競争環境にしてもらうよう求める必要がある。

 通信事業者は本来の売り物である通信サービスがコモディティ化し差異化が難しいため,料金競争に陥ってしまう。ただ,その状況を過度にテレビ・サービスに持ち込むと,業界の健全な発展を妨げてしまう。

 1000万のパイを取り合う発想ではなくて,パイをどう広げるのかを考えたい。そこで協調できるなら,我々は相手がNTTであろうとも話をしたい。

他のCATV事業者と協業は。例えばVOD(ビデオ・オンデマンド)のプラットフォームを展開する動きなどがあるが。

 J:COMは技術革新や先進的なサービスの導入ために一定の規模が必要と考え,番組統括運営会社の形態を取っている。その前提にあるのは資本的な提携で,これまで数多くのケーブル局を買収してきた。

 ただ,それぞれのCATV事業者は行政区分単位にできてきた経緯もあり,連結子会社化に抵抗感を持つところがある。そういった相手とは,緩やかな提携でも良いと考えるようになった。

 具体的にはVODサービスを提供するとか,サービス・メニューをできるだけ統一するとか,DVR(デジタル・ビデオ・レコーダ)を共同で開発するといった提携などがあるだろう。

電話システムを他のCATV事業者に展開する動きは,今後も拡大させるか。

 J:COMがほかのCATV事業者と違うのは,電話事業でNTTと同等のサービスが重要だと思っているところ。消防署や警察署に連絡できる緊急発信機能や,番号ポータビリティでNTTで使っていた番号をそのまま使えるという部分を重視している。

 J:COMの想定ユーザーである40歳以上のファミリー層には,緊急時の連絡機能が欠かせない。CATV事業者には24時間態勢でユーザーに連絡ができて,何かあれば自分たちがサービスをできる機能が必要だ。ただし,そのためにはCATV事業者に一定の投資が必要になる。こうした投資があるため,KDDIと組んで電話サービスを提供するCATV事業者もいる。

 番号ポータビリティを実現するのは,この年齢層が電話を中心とした生活を送ってきたため。電話番号を切り替えることに抵抗感を持っているからだ。

ジュピターテレコム 代表取締役社長
森泉 知行(もりいずみ・ともゆき)氏
1948年生まれ。東京都出身。70年上智大学外国語学部卒業。同年に住友商事へ入社。89年11月からトロント,95年1月からニューヨークに駐在。96年10月にジュピター・ショップチャンネル社長,2000年2月にジュピター・プログラミング社長に就く。同年4月に住友商事理事に就任。2003年3月から現職。

(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2009年6月12日)