新型インフルエンザに対応するBCP(事業継続計画)や出張費削減の手段として注目を集めるテレビ会議システム。最大手の米Polycomは,活用の鍵を握るのは業務プロセスとのすり合わせとの考えから,業種別ソリューション提供に力を入れている。Enterprise Solutions Global DirectorのRandel Maestre氏に,テレビ会議の効果を最大化する鉄則を聞いた。

(聞き手は,高橋 秀和=ITpro


企業導入の世界的な動向は。

写真●米PolycomのEnterprise Solutions Global DirectorのRandel Maestre氏
写真●米PolycomのEnterprise Solutions Global DirectorのRandel Maestre氏
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 多くの企業がコスト削減と生産性の向上を同時に達成しようとしている。具体的には,出張旅費の削減,映像コミュニケーションによる業務の効率化が主な目的だ。

 目的を達成する手段として,業務プロセスの中でテレビ会議をどう活用するか,製造・物流,金融,教育といった業種別のソリューションを組み立てていくのが今のトレンドだ。必要性を明確にしないと,導入しても効果が見込めないからだ。

 テレビ会議システムは人と人とのコミュニケーションを扱う以上,最適なソリューションは業種ごとに違う。いきなり製品の話から商談に入ることはない。

テレビ会議の成功事例に共通項はあるのか。

 大きく5つのポイントが浮かび上がってきた。やはり一番大事なのは,業務上の必要性を明確化することだ。カスタマー・サービス部門,保守部門といった部門ごとにテレビ会議の必要性を理解してもらう。現場が業務改善の手段として理解を深めなければ,結局使われずに終わる。

 次に重要なのは,社内でテレビ会議を積極的に活用している“チャンピオン”を特定すること。テレビ会議の価値を理解しているユーザーの利用度を高める振興策を実施することで,口コミによる波及効果を期待できる。

 とはいえエンドユーザーの利用を待つばかりでは意味がない。3つ目のポイントは,テレビ会議を使った各種イベントの実施だ。テレビ会議を使うシーンをイベント開催によって作り出し,とにかく「テレビ会議システムが社内に存在する」という認知度を高めていく。

 テレビ会議製品を支えるネットワークとシステム,そして会議室の整備も重要だ。ネットワークの不備で動作に支障がでるようでは使ってもらえない。ユーザーが利用に集中できる環境を整えるのが情報システム部門の仕事。「精密機器につき勝手に触るべからず」といった張り紙がしてあるユーザーを目にしたが,本末転倒と言える。

 そして5つ目のポイントとなるのが,これまでに挙げた4ポイントの進捗状況を常にチェックすること。エンドユーザーの活用を期待するだけでなく,利用状況の把握とその効果測定に力を入れる。

個別の製品選択は重要ではないということか。

 業務プロセスの分析とその活用を進める過程で,使うべき製品が決まる。例えば製造業であれば,設計や検査に高精細なHDテレビ会議が向く。エネルギー分野では,施設管理などの利用シーンにおけるモバイル・テレビ会議端末の利用が生産性向上につながる。すべての製品は業種と業務プロセスありきだ。

業種別に特定用途の端末を用意するのか。

 特定の用途はパートナーとのエコシステムで対処する。このウェアアブルなモバイル・テレビ会議端末(写真参照)は,カナダのAudiSoft Technologiesが開発した。Polycom製品と連携するPolycom ARENA Partner Programに参加するパートナーの1社だ。

 このほかにも,ホテル予約や保険契約,デジタル・サイネージなどに使えるキオスク端末をチリのLatin telecomが採用している。日本市場においてもこうした特定用途向けの製品を投入できるよう,顧客にアピールしている最中だ。

企業需要の伸びしろはまだあるのか。例えば米Cisco Systemsは,Linksysブランドでコンシューマ市場に力を入れている。

 Skype向け高音質スピーカフォン「Polycom Communicator」など個人用の製品もプロシューマ向け製品という位置付けで提供している。ただ焦点を合わせているのはあくまで企業ユーザーであることに変わりはない。

 もっとも現在ターゲットとしている市場にこだわるわけではない。常に新しいアプリケーションを模索している。コンシューマ市場への参入についてはコメントできないが,規模の大きい市場を探し続けているのは事実だ。