朝日新聞社デジタルメディア本部本部長の大西弘美氏

 2009年7月1日、IT情報専門サイト「CNET」「ZDNet」などを運営するシーネットネットワークスジャパンの買収を決めた朝日新聞。同社は2009年2月、トムソン・ロイター・ジャパンや東洋経済新報社、時事通信社などと組み、新しい広告配信ネットワーク「ビジネスプレミアムネットワーク(BPN)」を発表。2009年4月には講談社、小学館などと組み、新用語解説サイト「kotobank」を開設するなど、矢継ぎ早にネット事業を拡大させている。朝日新聞社の狙いは何か。同社デジタルメディア本部本部長の大西弘美氏に話を聞いた。

(聞き手は、原 隆=日経ネットマーケティング

「CNET」のどこが一番魅力的だったのか。

 まず、専門的な情報を核にインターネット上のヘビーなユーザーを抱えていること。弊社が運営している「asahi.com」にもデジタル関連情報はあるが、もっとジェネラルだ。コンテンツ面における高い専門性を評価している。そして、同時にネット専業でやってきた営業力にも期待したい。私どもの営業体制は8割方が新聞の広告営業から来ている。我々にないノウハウ、新しい刺激を望んでいる。何よりこれまでの朝日新聞社とは異なるカルチャーを作って行ければと望んでいる。

CNETの収益改善を今後どう図る。

 CNETは扱うテーマがニッチということもあり、ページビュー(PV)は大してない。ただ、単にPVが上がっても仕方がないと思っている。むしろ、ユーザー属性に注目している。例えば、CNETのユーザーの一定割合はasahi.comとかぶっているはず。CNETの閲覧者は若く、asahi.comの閲覧者は年齢層が比較的高い。さらに言えば、asahi.comはCNETよりも高いポストに就く男性を多く抱えている。互いに誘導を図り、こうした決裁権を持つユーザーを呼び込むことで、今までリーチできていないユーザー層に接触できるかもしれない。こうした相乗効果をうまくクライアントに対して訴求していきたい。いずれにせよ、短期的には広告モデルがメーンだ。

 そのほか、ZDNetが提供している企業向け有料サービス「企業情報センター」にも注目している。朝日新聞が現在、試験的に提供している「学校最新情報」や「CSR最新情報」などと連携させていくことも可能だろう。

9月1日以降のCNETの体制は。

 社名についてはまだ正式には言えないが、社長については朝日新聞から出す。現在、CNETは複数社にコンテンツを提供しているが、「CNET」というブランドで出すことには変わらない。ネットに詳しい読者に対し、あえてブランド名を変更する意味がないからだ。また、CNETにもこれまで培ってきた付き合いがあるはず。突然、記事提供をストップさせるということはない。市場関係を見ながらということになる。

 とはいえ、朝日新聞社はニュースをあまり他社に配信していないメディアの1つ。ニュース提供に対する見返りが本当に妥当な価格なのかという疑問はある。

アドネットワーク「BPN」の状況はどうか。

 すごく売れているという訳ではないが、広告出稿状況は思ったよりいい。広告市場は当然厳しいことが予想されていたため、かなり厳しめの覚悟はしていたが、健闘していると言える。当初は媒体ごとに異なる広告審査部分での調整に手間取るかなと思っていたが、連携してうまく進められている。

 BPNに加盟するサイトのうち、最もPVを稼いでいるのは朝日。時事通信もそれなりに数字を持っている。規模だけでいえばヤフーがいるし、黙っていて何とかなる事業ではない。もともと楽観視もしていないため、アドネットワークの数が増えている現状で、今後は何かしらの付加価値をつけていく必要がある。

朝日新聞が目指すネット事業とは。

 asahi.comは朝日新聞のニュースサイトとしてスタートした。ニュースが来訪のきっかけになるのは間違いない。ただ、米国の新聞社の状況を見ても、そこだけに頼っていてはこれ以上、事業の拡大はない。ニュースだけではない、総合サイトを目指している。

 今回のCNET買収のような話は手間もエネルギーも相当かかるが、基本的には外部と組んで拡張し、新聞とは一線を画していきたい。どうしても新聞の論理だと「できること」「できないこと」ということが出てきてしまう。例えば、現状では選挙対応人員が必要な時期。だが、来月選挙があるから人が割けない、先延ばしにしてしまうというのはネット事業においてはあり得ない話。ネット事業は、本来、もっとスピード感を持って展開していかなければならないはずだ。そのためにも、ネット事業の文化を社内で作っていく必要がある。事業に主眼を置いてやっていく人間を増やしていかなければならない。

先般のサッカーの日本代表戦におけるTwitter活用もその一例か。

 Twitterの活用は、朝日新聞ではなくデジタルメディア本部として取り組んだ。好意的な意見もあれば、社内はもとより朝日新聞本来のファンからのお叱りもあった。それでも、新しい取り組みに身軽に挑戦していくことが重要だと考えている。