2011年7月のアナログ停波まであと2年に迫った。しかし,建物の陰で電波の受信状況が悪い場所,あるいは集合住宅で使う「共聴施設」は,地上デジタルテレビ放送に未対応だったり対応する計画がない割合が結構あるという。このほど共聴施設のデジタル化対応状況の調査結果を公表した総務省の玉田デジタル放送受信者支援室長に聞いた。

(聞き手は山崎 洋一=日経NETWORK

総務省 情報流通行政局 地上放送課 デジタル放送受信者支援室 室長の玉田 康人氏
総務省 情報流通行政局 地上放送課 デジタル放送受信者支援室 室長の玉田 康人氏

共聴施設は,現在どのくらいあるのか。

 共聴施設には,「辺地共聴施設」,「受信障害対策共聴施設」,「集合住宅共聴施設」の3種類がある。今回の話は,受信障害対策共聴施設と集合住宅共聴施設に関係している。

 受信障害対策共聴施設は「ビル陰共聴施設」とも呼ぶ。都市受信障害などというが,高層ビルが建ったことが原因でテレビが見られなくなった世帯が使う共聴施設を指す。つまり地方部より都市部で多い話だ。施設数は全国で約5万,全国の約600万世帯が使っている。集合住宅共聴施設は,マンションなどで地上波のアンテナを屋上に一つ建てて,それを分配して見るものだ。施設数は全国に約200万,全国で約1900万世帯が使っている。

デジタル化対応にはどのような作業が必要になるか。

 まず受信障害対策共聴施設についてだが,一般的に「デジタルテレビ放送は障害に強く,ビル陰などで影響を受けるエリアはだいたい10分の1になる」と言われている。つまり,地上デジタル放送なら自分でアンテナを建てれば見られるという世帯もある。しかし,残ったところは共聴施設が必要だ。共聴施設によっては,デジタル対応のための改修作業が必要になる。例えば,受信障害対策共聴施設のアンテナがVHFにしか対応していなければ,UHFに替える。ブースターがあり,それがデジタルに対応していなければ,これも替える必要があるだろう。アンテナ線を張り替える必要があるかもしれない。

 ビルが建つことで周囲の住宅でテレビが見られなくなる場合,これまではだいたいビルを建てる人が周辺を調査して,どの辺りがビル陰になるか把握し,対応してきた。費用負担は当事者間の話し合いでやってきた。デジタル化対応についても,あと2年の間に(受信障害の方の)自宅にアンテナを建ててもらうなり共聴施設を改修するなりの対策が必要となる。共聴施設の改修が必要ならば,ビルのデベロッパやオーナーと共聴施設を利用する人が協議しなくてはならない。相談には,結構時間がかかる。

 近所にケーブルテレビが来ているなら,共聴施設を使うのをやめて移る選択肢もあるだろう。いずれにしても,どう対応するか話し合ってもらわなくてはならない。集合住宅の場合も,基本的には受信障害対策共聴施設の場合と同じ。ビルのオーナーと相談する,あるいは管理組合がある分譲マンションなら自分たちで相談することになる。

デジタル化対応の進捗は。

 先日,受信障害対策共聴施設と集合住宅共聴施設についてデジタル化対応状況のデータを公表した(PDFへのリンク)。「対応済」,「計画あり」,「計画なし・不明」の別で集計している。このうち「計画あり」としているのは,話し合った結果,計画ができている状態だ。これに対して「計画なし・不明」になっている部分は,話し合ってすらいない可能性がある。心配なのは,施設を作ったのがだいぶ前でビル・オーナーが変わっており,誰と話し合ったらいいかわからないケースだ。ビル・オーナーに聞くと「ウチではない」ということもある。「計画なし・不明」の中には,対応する必要があるのかないのかわからないものも含まれている。

 施設数で見ると,対応済みの受信障害対策共聴施設は今年(2009年)3月末現在で約5600。全体の11.4%にすぎない。世帯数で見ると,対応済みの割合は若干よくなるが2割程度だ。施設の設置者別に見ると,大部分は一般のマンションやテナントといった民間のビル。それ以外に,国や自治体,公益事業者が設置している施設もある。公益事業者は電力会社が多いが,これは送電線に(電波が)反射して障害が起こることがあるためだ。どれも「計画なし・不明」としている割合は高いが,中でも特に目立つのは,一般のマンションやテナントの部分で約8割ある。国や自治体,公益事業者に関しては,「デジタル放送への移行完了のための関係省庁連絡会議」がある。これはアクションプランを作っており,所管省庁が責任をもってやろう,自治体や公益事業者もしっかりやって下さいという話になっている。一般のところは,引き続き原則民間同士でやってくださいということになる。

 地域ごと(具体的には総合通信局の管内ごと)にわけて見ると,関東と近畿に5万施設の6割以上がある。この2地域は,対応済みの割合も全国平均の11.4%を下回る。北海道と九州は過去取り組んできた経緯もあり3割を超えているが,全体の数のなかではそう多くない。そもそもビル陰共聴というくらいだから,課題になっているのは都市部ということになる。関東と近畿の「対応済」の割合をどうやって引き上げるかが課題だ。都市部のテレビ視聴者の中には,自分が共聴施設を使っているということを特に意識しておられない方も結構いるはずだ。昔から住んでいる方は覚えているかもしれないが,最近入居したような方はあまり意識していないことが多いようで,それが悩ましい。

集合住宅共聴施設の対応状況は。

 こちらは昨年(2008年)からサンプル調査を実施しており,今回初めて結果を公表した形になる。「改修不要」,「改修済」,「計画中」,「未定」の別で割り出している。全体の中で改修不要と改修済を合わせた割合は,2008年3月の62.6%から2009年3月には72.2%と上がっている。ただ残っている部分もあり,そもそも施設数が多い。こちらも受信障害対策共聴施設と同じく,対策を進めなくてはならないことに変わりはない。都道府県別に分析してみると,対応化済みの割合が低そうなのは関東地方だった。UHFに対応していない施設が多いためだと推測している。

対応を促進する活動としてどのようなものがあるか。

 「テレビ受信者支援センター」(デジサポ)を設けている。ここで今年の5月から,民間を中心に5万ある受信障害対策共聴施設を一つひとつ回ってデジタル化対応を働きかけている。1回訪問して終わりではなく,フォローアップも必要なので複数回訪問することにもなるだろう。

 集合住宅共聴施設のほうは,1軒ずつは回りきれないので,マンションの管理会社を訪問していく。約6万社を訪問する予定だ。大手のマンション・デベロッパから町の不動産業者まで広い範囲を回っていくことになる。テレビ受信者支援センターには,コール・センターでデジタル対応の相談を受け付ける役割もあるが,どちらかというと自ら訪問する能動的な活動が主だ。

 受信障害対策共聴施設に関しては,補助金制度もある。国から補助事業の実施主体である社団法人デジタル放送推進協会(Dpa)を介して共聴施設のオーナーに出す「受信障害対策共聴施設整備事業費補助金」だ。一般的に,1戸建ての住宅でアンテナを立てると,だいたい3万5000円かかると言われている。アンテナが5000円,工事費用が3万円という感じだろうか。この額は公平性の観点から,受信障害対策共聴施設を使っている方でも,そうではない方と同様に負担していただく。そこで受信障害対策共聴施設を改修しようとした際に,1世帯当たり3万5000円を超えたらその分を補助する。

 補助の金額は,1世帯当たりでかかる額に応じて補助分が決まっている。たとえば施設の改修に1世帯あたり10万円かかったとすると,そのうちの5万円を補助する。残り5万円の負担は,当事者同士で話し合って決めていただく。この補助金制度の実施期間は今年の12月28日までで,対象は受信障害対策共聴施設のオーナーだ。

 それから今回補正予算に,補助金の対象の拡大と,支援策の拡充が盛り込まれた。まず補助金制度は,これまでの対象は「改修の場合」だったが,それを「ケーブルテレビに移行する場合」と「デジタル化によって新たに共聴施設を新設しなくてはならなくなった場合」に拡大する。それから,デジタル化対応の人的な支援策として,調査が必要な場合で,テレビ受信者支援センター自身が調査した方がよさそうだと判断した場合は,センターが調査を行うようにする。また,意思決定の際の費用負担などでもめた場合の簡易な紛争処理の体制も作る。そして,今はない集合住宅共聴施設への補助金制度を始める。例えば老朽化した施設で工事費が高くなる場合,あるいは世帯数が少ない場合などで,1世帯当たりの負担額が3万5000円を超える場合が対象になる。拡充内容についての詳細は調整中で,今年の8月中には開始する予定だ。

共聴施設のオーナーやデベロッパ,そして受信者へのメッセージは。

 オーナーの皆さんには,今ビルの陰になっているところでもデジタルなら共聴施設を使わず直接視聴できるようになるケースもあると思われるので,早く対応状況を調査しデジタル移行後に共聴施設が必要な世帯数を把握して,該当する世帯の方に周知していただきたい。そして,早く対応を協議していただければと思う。

 デジタル化対応のコスト負担については,これまでは補助金がなく当事者間で負担していただいていた。しかし残り期間が2年となり,国としてもサポートしたいという考えで補助金制度を作った。これを使って,うまく話し合っていただければと思う。そして,この作業を是非急いでいただきたい。施設の対応には工事が必要になる。後になるほど工事のマンパワーが不足してくることが懸念されるからだ。先ほど説明したように,関東圏に施設が集中していることを考えると,ギリギリ手が足りるというところだろう。工事で長い期間お待たせするわけにはいかないので,早く話し合いを開始して意思決定まで持っていってほしい。

 受信者の皆さんには,まずご自身が共聴施設を使ってテレビを視聴しているのかどうかを確認していただきたい。この点を意識されていない方が多いと思う。アンテナがどこからきているか,デジタル対応について誰と話し合ったらいいのかということを,近所の人と話したり相談したりするところから始まると思う。その際に,テレビ受信者支援センターに「地域で話し合いがしたいのだけど」といったことを相談していただいてもいい。