5月下旬の携帯電話の夏モデル発表で,「ブックケータイ」やハイビジョンムービー対応端末など新型端末をそろえたKDDI。料金面でも指定通話とデータ通信で月額390円の二つの定額サービスを発表した。携帯電話の販売シェアで不振が続く中,解決の糸口は見えてきたのか。KDDIでコンシューマ向け商品を統括する高橋常務に,これからの展開を聞いた。
「去年と違う夏」という夏モデルの発表に込めた狙いは。
昨年は,開発プラットフォーム(KCP+)を整備していた関係で,端末のラインアップで苦しんだが,一部で挑戦的な端末が出てきていた。それをさらに強化したのが今夏のラインアップだ。世界初,日本初,業界初の端末をそろえられたので,他社の先を行くauというイメージを演出できたと思う。
最近の不振の原因は,「社内に慢心があった」ことだとの指摘があったが。
携帯電話の番号ポータビリティ(NMP)が始まったころは,販売台数が多く見込めた。このため,ユーザー・セグメントの真ん中を向いてしまい,結局落ち着いたおとなしい端末が多くなってきた。そのうちに,一歩先を行く“auらしさ”を失っていることに気が付いたので,大きく見直しをかけた。1年半~2年かかって,やっとその成果が出始めてきたところだ。
ただし端末価格が上がったため,ユーザーが2~3年と長い期間端末を使おうとする。このため,夏にauらしさを取り戻した後,秋には多くの人に使ってもらえる中核商品を出せるよう,スペックを見直している。
夏モデルと同時に発表した新料金の狙いは。
通話とデータ通信で390円という料金を設定したのは社長の決断だ。かつてはauが料金で先を行くイメージがあったが,最近は後追いに見えていた。そこでイニシアチブをもう一度取り戻そうということで,月額390円とした。
当初は490円という意見もあったが,せっかくやるならと踏み切った。端末の新しい機能を発表できるので,同じタイミングで料金も打ち出そうとした。
世界で伸びるのはスマートフォンと言われている。これからの端末戦略は。
携帯電話端末を非常に多機能なものと通話ができるだけのものに分けると,海外では多機能なものはスマートフォンに,通話だけのものは徹底的に安いものへと2極化している。海外ではEメールをビジネスに使いたい人はスマートフォンに流れている。
ところが日本は廉価なものから高スペックなものまで全部の端末でEメールを使える。このため,多機能性へのニーズがあっても,まだユーザーは普通の携帯電話を使い続けている。
今後は日本市場もスマートフォンにシフトしていく可能性があるので,注視していく。ただ,単純にオープンなスマートフォンを出しても,高機能端末の市場を取れるかどうかは疑問だ。
スマートフォンでは,アプリケーションの開発を促す環境作りが進んでいる。
その取り組みは日本で先行していたものだ。そもそもKDDIの端末が取り入れた米クアルコムのBREWが,こうしたプラットフォーム環境を先取りしていた。KDDIとしては通信事業者の役割を定義しながら,この動きに取り組んで行こうと考えている。
日本ではアプリケーションを通信事業者が審査することが,市場のダイナミズムを妨げているという指摘がある。
それは悪いアプリケーションを通信事業者のプラットフォームから売るわけにいかないから。米国のように消費者が割り切って,購入したアプリーション使う土壌があれば良いが,日本の場合は通信事業者にも責任が及ぶ。日本ではモバイル・インターネットをそういう形で作ってきた側面がある。
この状況を変えられるように取り組む時期に来ているかもしれない。オープン化の重要性が訴えられている中で,ユーザーの考え方を丁寧に解きほぐしていくのが大事だ。
NTTドコモはAndroid端末を夏に出すが,KDDIは来年に出すのか。
現在,検討している。来年では遅いという声もあるが,市場が大きいW-CDMA方式の開発が先行する分,CDMA2000方式を使うKDDIが不利になっているところはある。短時間でキャッチアップしていきたい。
高橋 誠(たかはし・まこと)氏
(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2009年5月29日)