[後編]無線ブロードバンドが世界のGDPを押し上げる,日本企業も世界で活躍を

日本メーカーは,どう見えているのか。

 かつて日本メーカーはリーダー的な存在だったが,ここ5~6年の間に世界のイノベーションのリーダーシップを失ってしまった。

 通信事業者は投資を継続しており,モバイル・ブロードバンドは全世界のGDPを3~4%押し上げるだろう。このサプライチェーンに,日本のメーカーにも加わってほしい。

 数年前に世界市場から撤退した日本のメーカーの幹部が,世界に戻りたいと言っている。これに対し私は,技術だけでなくブランドやマーケティング,流通などを見るようアドバイスした。

 韓国のサムスン電子,LG電子などは6~7年かけて努力を続けて,現在は世界でそしてGSMAで活躍している。日本の政府とメーカーに強く勧めたいのは,もう一度GSMAに入り,ITUにも参加して自分たちをプロモートすることだ。そうすれば新しいビジネスを作り出せるはずだ。

 技術は先進的だが,日本には欠けている部分がある。例えばスマートフォン。ノキアは複数のスマートフォンを展開しているし,iPhoneやBlackBerryが成功している。サムスン電子やLG電子はLinuxやAndroidで新しい端末を出している。これほど市場には数多くのスマートフォンが出ているのに,日本の企業は静観している。

日本メーカーが作る端末のインタフェースはどうか。

ロバート G.コンウェイ氏
写真:的野 弘路

 iPhoneやBlackBerryが売れた理由の一つは,誰でも使えるというシンプルなユーザー・インタフェースにある。この部分を日本メーカーも強化して,世界で使えるものを開発していくべきだ。

 大事なのはグローバルで使えるインタフェースを作り上げることだ。欧州や米国など特定の地域だけでなく,全世界で使えることが重要になる。海外で売れる端末を作ったメーカーは,自国ではなく全世界をターゲットとしてインタフェースを作っていた。

 さらにアプリケーション・ストアを作っていく必要がある。アプリケーションが気にいったとか,使えるアプリケーションがとても優れているので端末を使い続けたいとか,ユーザーに思わせる仕掛けが必要だ。

 グローバルのリーダーシップを日本メーカーがもう一度確立するには,従来と異なった心の持ちようとアプローチが必要だ。韓国や中国のメーカーの成功事例を見てほしい。彼らはグローバル市場に自分たちを適応させていく手段を短期間で学んでいった。

では日本の通信事業者はこれから何をすべきか。

 日本の通信事業者も,もっとグローバル・コミュニティに入ってきてほしい。そして日本で培ったリーダーシップをグローバルな舞台でも発揮してもらいたい。

 世界中でモバイル・ブロードバンドが広がるということは,日本にもチャンスがあるということ。サービスやアプリケーションで日本でやっていることを,世界の舞台に持ち込んでほしい。

 GSMAに積極的に参加している,ある事業者は,この場で世界のほかの通信事業者たちとビジョンを共有し,これからの戦略を作っていくスタンスを取っている。

 私たちは通信事業者も各国の政府も取り込んだエコシステムを構築しようとしている。メーカーだけでなく通信事業者もグローバルの視点で行動してほしい。

 日本には,技術を持っていながら世界に対して影響力がまだない中小企業がたくさんある。米国などでは最初は中小規模だったが,全世界にアクセスしたがために,今は莫大な収益を上げる大会社に成長した企業がある。こうした規模の小さいイノベータにチャンスを与えるプログラムをGSMAは用意している。

GSMアソシエーション CEO
ロバート G.コンウェイ氏
ディキンソン大学で英国大学学士号(BA)を,カトリック大学法科大学院で法学博士号(LLD)をそれぞれ取得。ミュラー・ミンツ法律事務所での勤務を経て,モトローラに移籍する。モトローラでは幹部チームの一員として数年間勤務した後,1999年にGSMアソシエーションに参加。2003年にはGSMAを取締役会主導の構造に変革し,取締役会の創設メンバーとなる。さらにMobile World CongressとMobile Asia Congressを含めGSMアソシエーションのイベントを整備した。

(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2009年4月20日)