マイクロソフトの屋台骨の一つであるOffice事業を率いるスティーブン・エロップ氏は、同社の新しい「顔」。今年をクラウド戦略の重要な出発点と位置付け、その次世代戦略をアピールする。早ければ5年後にも、サーバー分野でソフトとサービスの収入が拮抗すると予測。次期Officeは非パソコン環境でも快適に利用できるようにするという。
クラウドコンピューティングという言葉が登場して2年余り。クラウドに対する顧客の認識をどうみる。
最近になって大きく変わってきていると思います。クラウドの初期段階は「Web 2.0」と呼ばれていました。Web 2.0という言葉を通してインターネット利用者が理解したサービスは、公のインターネットを通して利用するアプリケーションのことでした。「ウィキペディア」はその代表と言えます。
こうした見方が変わり始めた。米アマゾン・ドット・コムが開始した「EC2」などのサービスがきっかけです。同社のサービスによって、クラウドはコンピューティング基盤としての可能性を秘めているとの認識が広がり始めました。情報システムを稼働させる基盤やデータを保存するストレージとして、クラウドを利用できると理解するようになったのです。
アマゾンは非常に早い段階から努力を重ねてきた、高く評価されるべき存在です。
「クラウド=ブラウザ」ではない
クラウドに対する認識の変化にはもう一つ、クライアント環境に対する変化があります。当初、クラウドといえばWebブラウザを使うものと思われていました。しかし最近ではネット上のクラウドに、手元の様々な機器の能力を組み合わせる利用形態が広がっています。まだ始まったばかりの動きではありますが、高い能力を持つパソコン、さらには携帯電話やブックリーダーなどの能力を活用しない手はないと、人々が理解し始めているのです。
当社が掲げる「ソフトウエア+サービス(S+S)」戦略は、こうした環境を想定したものです。具体例の一つは当社の「Microsoft Online Services」です。これはExchange Serverなどの機能をオンラインで提供するサービスで、パソコンや携帯電話にインストールした電子メールソフト、そのWebブラウザ版など、機器の特性に応じたクライアント環境を選択できます。利用者に最適な体験を提供します。
人々がクラウドに対して考えている内容が変わってきています。Webブラウザだけでなく様々なデバイスが混在する状況で、よりよいクラウドの利用形態を生み出す、そんな流れが生まれています。
ライバルのグーグルは、ブラウザを通して利用する形態のクラウドを発展させようとしている。
すでにマイクロソフトのS+S戦略は、クラウドだけを推進するグーグルのアプローチを敗北させました。グーグルが開発した独自ブラウザの「Chrome」がその証拠です。
なぜグーグルは、それまで支持していたFirefoxではなく、独自のブラウザを手がけるようになったのでしょうか。世間はこれ以上、新しいブラウザを必要としていなかったというのに。
グーグルはブラウザを作りたかったのではなく、利用者の手元にある機器の処理能力を活用する必要があると気付いたんですよ。いわばS+Sの動作環境を求めていたのです。
例えば文書作成アプリケーションの「Google Docs」を快適に利用するには、ネットにつないでいない状態でも利用できるよう、ローカルにデータを一時蓄積する必要がありました。しかしWindowsに依存する環境を作るわけにはいかなかった。そこで彼らは、ブラウザという名称を付けてはいるものの、新しいプラットフォームとしてChromeを作ったのです(本誌注:Chromeはオフライン動作を可能にする技術「Gears」を標準搭載している)。
グーグルのアプロ ーチは「Windows飛ばし」につながらないか。
競合するのは明らかです。でも脅威とは思っていません。マイクロソフトもグーグルも、常にイノベーションを追求して、顧客に新しい価値を提供しなければならないからです。
競争があるのは顧客にとって良いことです。こうした挑戦に当社は何度も直面してきました。それはこれからも続きます。
昨年、マイクロソフトは「Windows Azure」などのクラウド戦略を発表した。今年はどんな年になる。
2009年は出発の年になります。行く手は非常に長く、そして複雑な道になるでしょうが。
一般の人々に対して、ようやくマイクロソフトのS+Sを実感できるような製品、サービスがそろってきました。そして実際に利用してもらえるようになりました。
昨年10月にWindows Azureを発表し、現在は試験提供を始めています。その上で動く開発支援の「部品サービス」も、徐々に充実させています。そしてアプリケーションとして提供を始めたのがMicrosoft Onlineです。当社の言うS+Sは、もはやアイデアではなく、実際に人々が体験し、利用できるようになっているのです。
スティーブン・エロップ 氏
(聞き手は,星野 友彦)