[後編]「サービス収入」は5年後に過半へ 次期Officeは非PCにも最適化

日本で4月から商用サービスが始まったMicrosoft Onlineの利点は何か。

 まず顧客企業のIT部門にとっては、システム運用保守の手間が減り、本業に経営資源を振り向けやすくなります。電子メールは企業の重要なインフラであっても、その運用は戦略的な業務とは言えません。当社に運用を任せていただくことで、IT部門はより戦略的な業務に集中できます。

 企業が自社で運用する場合に比べてコストを低減しやすいこと、そして常に最新の技術や機能を利用できることも、大きな利点と言えるでしょう。

ソフトウエア版とオンライン版で、顧客のコスト負担はどう変わる。

 当社の試算を示しましょう。企業が電子メールのアカウント一つ当たりにかける費用は、何らかのソフトウエアを使う場合で1カ月当たり12~18ドルでした。ソフトウエアとハードウエア、システム構築や運用の人件費、光熱費などをすべてを含めた金額です。そして現在のところは、この12~18ドルのうち2~3ドルが、ソフトウエアのライセンス料としてマイクロソフトに入ってきます。

 一方でMicrosoft Onlineの場合、1アカウント当たりの費用は月額10ドルです。ソフトウエア版に比べて1カ月に2~8ドルを節約できる計算です。

 そしてマイクロソフトにとっては、これまでせいぜい3ドルだった売り上げが、サービス料金の全額である10ドルに増えます。当然、パートナー企業に還元できる金額も増えます。もちろんデータセンター設備などに投資する分を差し引く必要がありますが、より多くの顧客を集め、データセンター設備を巨大化すれば、規模の経済の原理で全体の費用負担は減ります。

 つまり顧客企業は費用を節約でき、当社やパートナー企業にも収益が増える可能性がある。三者にとってよいモデルと言えます。

ソフトとサービス、5~7年で拮抗

オンラインサービスが拡大すると、マイクロソフトの収益構造も変化が避けられない。

スティーブン・エロップ 氏
写真:小久保 松直

 確かに祖利益率は下がります。ソフトウエア事業に比べて、データセンタ ーなどハード面での設備投資が増えますから。

 しかし収益の絶対額は底上げされるとみています。オンラインサービスによって、ソフトウエアを販売するのに比べてより多くの顧客に当社のサービスを販売できるようになるからです。したがって当社の業績面では良い影響があると考えています。

ソフトウエア中心からサービス中心の収益モデルへの変化にはどのぐらいかかるのか。

 5年から7年先には、ExchangeやSharePointといったサーバー分野の事業は、サービスとソフトが半分ずつになっていることが考えられます。同様な変化は、マイクロソフト以外の企業でも着実に進むでしょう。

次期「Office」はWebブラウザ版が出るとされている。

 ここでは当社の考える原則をお話ししましょう。一つ目は利用者が得る体験の一貫性を保つこと。パソコン上でも携帯電話でも、あるいはWebブラウザ上であったとしても、利用者が納得のできる、なじみのある体験を得ることができなければなりません。

 二つ目の原則は異種環境間でデータ形式を保つことです。携帯電話からWebブラウザへ、そしてパソコンへと、いろいろな人々がいろいろな方法でデータを移動したとしても、その形式を損なってはいけません。異種環境間での相互運用性の確保も重要です。

 そして最後の原則は稼働環境の特性を尊重することです。すべてのデバイスや環境に同じ機能、同じ役割を持たせるのは適切ではありません。

 例えば携帯電話は画面のサイズが小さい。そこでより多くの機能を搭載するよりも、シンプルですっきりとした機能や画面構成が必要です。Webブラウザ版ならば、(ネットブックPCなどの)軽量な環境で利用することを念頭に、ソフト自体も軽量にする必要があるかもしれません。その場合の用途としては複雑な文書の編集よりも、リアルタイムの共同編集、あるいは文書の共有のほうが向いているでしょう。

 このように稼働環境の特性やコンテキスト(利用状況や利用者の意図)を考えて、製品を設計していきます。

米マイクロソフト マイクロソフトビジネス部門担当プレジデント
スティーブン・エロップ 氏
マクロメディア社長兼CEO、アドビシステムズ事業運営責任者、ジュニパーネットワークスCOOなどを経て、2008年1月にマイクロソフト入社。企業向け製品の事業部門を統括するとともに、経営幹部の一人として全社戦略決定に参加。最近では同社の対外的な顔として各種の講演などで活動。カナダ オンタリオ州ハミルトン市のマクマスター大学でコンピュータ工学と経営学の学士号を取得。

(聞き手は,星野 友彦)