富士通はどこに向かおうとしているのか。独SAPのERP、米シスコのユニファイドコミュニケーション、米セールスフォース・ドットコムのSaaSなど欧米製品を扱うケースがどんどん増えている。グローバル展開するうえで、こうした協業は欠かせないと富士通は主張するが,その存在価値は薄れているように見える。サービスビジネス担当の広西光一副社長に、クラウドコンピューティングを例に富士通の進む道を聞いた。(聞き手はコンピュータ・ネットワーク局編集委員 田中克己)

富士通はどこに向かおうとしているのか。

富士通 サービスビジネス担当副社長 広西光一氏
富士通 サービスビジネス担当副社長 広西光一氏
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 富士通はSI、サービス、ソリューションで生きていくことを決めた。07年度、08年度の業績からその方向がはっきりしてきたことで、それらビジネスに必要なものだけをやることにした。

 つまり、サーバーやストレージなどは要るが、これまでのコンピュータ事業に必要だった半導体やHDDを富士通のビジネスにならないということだ。確かにサーバーに使う半導体技術は持つ必要はあるが、製造は他社に任せてもいいわけだ。

クラウドコンピューティングで競合他社と差別化はできるのか。

 これまでの富士通は、顧客の要望に合わせてシステムを作ることで成長してきた。しかし、グローバルで戦うにはコンセプトが大切になる。

 例えば、クラウドなら「信頼性のあるクラウド」となる。IBMやマイクロソフトなどとは少し違う考え方で、いわばSI力を生かしたクラウドにするために信頼性を取り入れた。SIをやってきたからこそ出てくる発想で、富士通はここに軸足を置く。

しかし、クラウドで収益を確保できるのか。

 いろんなビジネスモデルが考えられるが、今はそれを探っている段階だ。米セールスフォース・ドットコムなどが展開しているが、うまくいっているのはCRMやSFAなどしかない。もちろん富士通は成功させたいと思っているが、ビジネスとして成り立つのかまだよく分かっていないのは事実だ。

 ただし、ユーザーは自分で資産を持ち運用していることをバカバカしいと思い始めている。費用の70%が保守・運用に割かれていることが分かり、しかも同じアプリケーションをずっと使い続けているのに、汎用機を7年で取り替えることは富士通のためにしているのではと思い始めてもいる。

 さらに、自社で基幹系システムを2~3年の期間をかけて構築しても、完成したときに陳腐化していることがある、自社の戦略のスピードに追いつけないということだ。そのため自分で資産をもたず、世の中に使えるものがあれば、使おうという流れになってきた。

その流れに富士通はどう対応していくのか。アプリケーション開発が減れば、SEが大量に余ることも考えられる。

 SEはSIの宮大工で、いわば1件1件の案件ごとにシステムを作り上げていた。だからSE不足となった。だが、データセンターの中にアプリケーションが用意されたら、SEは逆に余ってしまうだろう。その傾向はすでに始まっているので、ビジネスモデルを変革する必要がある。

 ところが、これまではSE、運用、業種別組織といった社内の各部門でこうした問題を考え、個別最適を図っていた。今は全体最適が求められている。SEはどうするのか、サーバーはどうするのか、ネットワークはどうするのか、ではなく、オール富士通としてクラウドのビジネスモデルを考える必要がある。それはプロダクトではなく、顧客視点で考えることになる。

サーバーは本当に必要なのか。

 クラウドはサーバーの塊なので、サーバーをやらないとクラウドはできなくなる。データセンターの運用だけをやり、アプリケーションは他社製を使うとなったら、富士通の存在価値はなくなってしまう。

 確かにOSやミドルウエアなどは他社製を使うこともあるが、そこはオープン化されている分野だ。もちろん富士通製品もあるが、海外には通用しない。それに当社だけで、すべてを開発できるわけでもない。すべて自分で作る能力もない。だから例えば、グローバルに出るためにSAPを扱うが、その周りのSIは手掛けるし、サーバーも入れるわけだ。

SEはどうなるのか。

 宮大工という作り方から共通の開発基盤の上で、ユーザーごとにアプリケーションを作っていくことに切り替える。これをサービス型SIと呼んでいる。あるユーザー向けに開発したアプリケーションを、他社にも使えるようにすることだ。また、既にあるアプリケーションはSaaSとして使えるようにし、無いものは基盤上に新たなに作り込めばいい。

 加えて、地域SE会社を東、西、九州の3地域に集約する。既に九州の3社は統合したが、東と西はバーチャル統合の形にする。東は富士通システムソリューションズの秦聖五社長を、西は富士通関西システムズの杉本隆治社長をブロック長にした。まずは基盤の共通化を図り、誰でもが同じ方法で開発するようにする。間接部門も共通化するなど、バーチャルに標準化していく。もちろんリアルに統合したほうがいいとなれば、そうする。答えは09年度中に出す。その一方で、富士通ビジネスシステム(FJB)などの再編も進める。

FJBの100%子会社は基盤共通化の流れなのか。

 FJBの子会社化はまだSIの発想の延長になる。SEが不足し、かつ中堅市場向けのパッケージなどタマ不足の問題を解決することにある。また、富士通は中堅市場へ、FJBは大手市場へと開拓し始めたことで、両者は市場で競合する場面が出てきたこともある。ムダをなくし、効率化を高めるために、FJBは首都圏に営業を集中させてきた。