創業151年の老舗総合商社である伊藤忠商事は、中期経営計画「Frontier 2010」の最重要課題に、「世界企業に向けたグローバル人材の育成」を掲げている。グローバル化を推し進める同社に、2008年後半からの世界同時不況はどのような影響を与えたのか、さらに飛躍の鍵を握るグローバル人材育成の取り組みについて、伊藤忠商事 取締役社長の小林栄三氏に話を聞いた。
(聞き手は多田 和市=コンピュータ・ネットワーク局 編集委員、「経営とIT新潮流」編集長)

伊藤忠商事 取締役社長の小林 栄三氏
伊藤忠商事 取締役社長の小林 栄三氏
写真:山田 愼二

「100年に一度」といわれた世界的な金融・経済危機も最悪期を脱して、ようやく明るい兆しが見えてきたように思います。足元の経済情勢をどのようにとらえていますか?

 まず、忘れてはいけないのは、2004年から2008年の半ばくらいまでの4年半は、歴史的に見てまれにみる好景気だったということです。世界同時好況とでもいうべき状態でしたね。金融バブルによって、理論的には1対1であるはずの金融経済と実態経済が、1990年代には2対1になり、2008年に4対1にもなりました。この未曽有(みぞう)の好況がもたらしたのが、過剰消費です。過剰消費の代表選手が米国、その消費に対応して、過剰供給を推し進めたのが日本と中国です。

過剰消費・過剰供給のドラスティックな調整が「100年に一度」の経済混乱をもたらす

 2008年後半、これまでの過剰消費・過剰供給が、調整局面に入ったのは明らかです。しかも、4年半の好況で企業に体力がついていたので、ドラスティックに生産に急ブレーキをかけることができました。製造業は、もう生産が止まる寸前くらいまでブレーキを踏み込んだ。これが、「100年に一度」といわれる経済の混乱をもたらしたのだと思います。

 今の状況は、企業が思いきり踏み込んだブレーキから、そろそろと足を離し始めたところではないかと思いますね。企業がブレーキから足を離し、再びアクセルを踏み始めた要因は、3つあると考えます。1つ目は、ドラスティックな減産によって在庫調整が進んだこと。2つ目は、各国が積極的に景気刺激策を実施していることです。それから、3つ目は、社会のムードが良くなったことです。2008年末から2009年3月くらいにかけて、メディアが「不況、不況」と報道したために、社会全体の雰囲気が非常に暗くなりました。ここにきて、そういった悪いムードが変わりつつあります。

(つるべ落としのような)急激な減産局面が終わり、これから供給を正常化するにあたりどのような調整が必要ですか。

小林 栄三氏
小林 栄三氏

 供給を正常な状態に戻すには、誰かが消費をしなくてはいけません。私は当面、中国やインド、インドネシア、ベトナムなどが消費の中心を担うと考えます。これまで消費の中心だった米国は、今はお金の貯蓄に熱心です。伝統的に貯蓄をしないお国柄でしたが、この1年間で100兆円くらい貯蓄していますね。

 しかし、米国の消費低迷を中国などが補えば、日本企業は正常な供給体制に戻るのかというと、そう簡単にはいきません。今、企業は、消費と供給の正常なバランスがどこにあるのかを、探り合っています。