制度や仕組みをグローバル化すれば、自ずと人も企業も変わる

 富士通が今、グローバルカンパニーへの転身に向けて大きく舵を切っている。2009年4月には、ドイツにある富士通シーメンスコンピュータズ(FSC)を完全子会社化し、IAサーバーを年間50万台以上販売すると宣言した。一方で、力を入れるのが、“顧客起点の徹底”。その先兵となる「フィールド・イノベータ」と呼ぶ新手のコンサルタント育成を急ぐ。野副 州旦社長は、50万台という数字を掲げることが、グローバル化という変化を必ず引き起こすという。(聞き手は谷島 宣之=日経コンピュータ編集長、写真は小久保松直)

4月1日から、ドイツの富士通シーメンスコンピュータズ(FSC)を完全子会社にして、2年後の2010年度に年間50万台以上のIAサーバーを販売するという。可能なのか。

 大変ですよ。今は半分の25万台を売っていて、そのうち日本では8万台しか売れていませんから。これを2年後に20万台にしようと言っています。

 こういう目標を立てると何が起こりますか。必ず変化が起こりますよ。だって今の体制では絶対に売れませんもん。売る体制にも、売る組織にも、売る仕組みにも、売る制度にもなっていませんから。となると2010年まで1年ある中で何をやるか。20万台を売る仕組みを作ったり、販売パートナーとの関係を深めたり、新しい販路を開拓する。

 販路を開拓しただけでもだめですよね。そこにはすでに他社の競合メーカーの商品が流れているわけだから。他社製品より魅力的な製品を富士通が提供できるかどうか。魅力的というのは、品質だったり、納期だったり、価格だったり。製品をグローバルで50万台売ろうよと言った途端に、次々にチャレンジすべきことが見えてくる訳です。

富士通史上初の共通数値目標

 50万台という数字にはもっと大きな意味があります。実は富士通がグローバルに共有する数値目標を置いたのは今回が初めてなのです。今まではなかった。結果としての売り上げと利益ならありましたよ。FSCの売り上げと利益がいくら、北米市場の売り上げと利益がいくら、とあってそうした数字を連結に取り込むと、5兆5000億円という数字になっていた。それが果たしてグローバル経営かということです。

 違うでしょう、世界各地でローカルに活動していただけなのです。つまり「アクトローカル(Act Local)」しかなかった。各地のお客様に密着するという意味でアクトローカルはこれからも大事なのですが、もう一つ「シンクグローバル(Think Global)」もやろうと。もっとグローバルに物事を考えていこうと。

(写真・小久保 松直)

 FSCを例にとりますと、ドイツのFSCをIAサーバーの拠点にして、開発設計部隊を日本から持ってきてしまう。既にドイツで10年間やってきて、製品を作り込む設備なり、人なり、あるいは研究の体制なり、設計の部隊なりが、それなりに整理整頓されて置かれているわけですから、そこへ日本勢が入っていき一体化すればより強いシナジーを上げることが可能です。そこからグローバルに製品を供給していく時、日本は一つの市場として見ればいい。

 こう考えていくとグローバル経営は難しいことではありません。50万台のうち20万台を日本で売るといった理由は、日本が風邪をひくとドイツで作っているところも風邪をひくぐらいの強さを日本が持たない限り、本社の主導権なんかなくなるからです。日本が強さを持っていれば、「品質をこうしろ、価格も高い、原価の構造だっておかしいぞ」とドイツに言える。

 部品の調達だって、サーバー以外の製品も含めてグローバルに同じものを買えばコストダウンできる。日本の持っている製造技術を提案してもいい。日本の製造技術は凄いですからね。こういったことを日本がドイツの設計者、開発者、製造担当者にきちんと言うことによって、彼らがまるでバーチャルな日本工場であるがごとき動きをしてくれる訳です。