企業向けインターネット接続事業者(ISP)の老舗インターネットイニシアティブ(IIJ)が,MVNO(仮想移動体通信事業者)サービス「IIJモバイル」に加え,仮想閉域網サービス「IIJダイレクトアクセス」など新型サービスを相次いで打ち出している。その狙いに加えて,IPv4アドレス枯渇対策などISPが直面する課題に向けた考え方を鈴木社長に聞いた。
IIJモバイルがレイヤー2を扱えるようになったことで,サービスの領域が広がったように見える。
無線インフラを持っていなかったIIJは,一昨年ころからNTTドコモに無線インフラを貸してくれるよう交渉していた。というのも,固定通信で蓄積してきたソリューションを無線インフラに載せることで,IIJは企業ユーザーに従来と違うワイヤレス・サービスを展開できると考えていたからだ。
IIJはコンピュータ・ソフトをベースに通信を手がけてきた。通信事業者と違って,電話をベースとするのではなくアプリケーションからアプローチできる。IIJがこれまでやってきたVPN(仮想閉域網)やLAN,WANの技術はワイヤレスの環境でいろいろなサービスに展開できる。
レイヤー2まで開放されると,移動しながらLANを使えたり,セキュアなWANを構築できたりする。HSDPAで通信速度は最大6Mビット/秒くらい出るから,サービスには十分と言える。
レイヤー2接続を含めてサービスを始めたIIJダイレクトアクセスのポイントはどこか。ユーザー側に置いた「IDゲートウエイ」とネットワーク側の「IIJ独自技術基盤」が肝になるようだが。
IIJにはかつて「IDゲートウエイ」というリモート・アクセス時の認証サービスを提供していたが,あまり広がらなかった。それが最近,ルーター技術と組み合わせて一つの形になった。ただ,ここから先は企業秘密だ。
ベースになる技術は,若手の社員から提案されたものだ。アイデアを聞いたときには「そんなのできるの?」と感じたが,ソフトウエアを手直ししたらできるという話になった。
最近IIJからは,エンジニアが開発した技術からいろいろなサービスが生まれてきている。例えば,「クティオ」という,3.5G携帯電話を使う無線LANアクセス・ポイントを出荷した。IIJモバイルでも,USB型の端末を海外メーカーから調達して販売する。
こうした動きが増えたのは,会社の方針なのか。
「イニシアティブ」という会社の名前をもう一度思い起こそうという方針を打ち出した。設立から17年もやっていると,社員が保守的になって,このサービスを提供すると運用の負荷がかかるとか,ここにトラブルが発生したらどうしようと考えることが増えてきた。
インフラを持つ通信事業者と同じことをしても勝てないわけだから,前へ進むには冒険をしてリスクを背負わないといけない。新しいサービスを運用するのは面白いという思いがないと,進化が止まってしまう。こう言い続けて,1年かかってやっと新しいサービスが出てきたところだ。
IIJダイレクトアクセスのアイデアにも,社内の技術者からの反対が多かった。結局,アイデアが出てからサービスにするまで2年ぐらいかかった。それでもやればできることが分かったはずだ。
鈴木 幸一(すずき・こういち)氏
(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2009年4月8日)