KDDIやIntel Capitalなどが出資する、移動体通信事業者のUQコミュニケーションズが本格始動する。2009年2月に、モバイルWiMAX(IEEE 802.16e)方式の高速データ通信サービス「UQ WiMAX」の試験サービスを開始したが、7月1日に有料の商用サービスへ移行する。UQ WiMAXは、HSDPAなど現行の第3世代携帯電話(3G)に代わる、第3.9世代携帯電話(3.9G)の嚆矢(こうし)となる。月額4480円の完全定額制で、下り最大40Mbps、上り最大10Mbpsという高速の無線データ通信サービスを展開する。同社 執行役員常務 営業部門長の加固秀一氏に、商用サービス開始直前の準備状況、サービスエリア拡大やユーザー獲得に向けた戦略、将来の事業計画などについて聞いた。

(聞き手は持田 智也、金子 寛人=日経WinPC)


UQコミュニケーションズ 執行役員常務 営業部門長の加固秀一氏

2009年2月に試験サービスを始めてから4カ月近くになる。7月1日には商用サービスへ移行する。現時点でのネットワークの整備状況は。

 試験サービスの開始当初は、待ち時間にデータカードを使えるようにと喫茶店や駅のホーム、車内などでUQのサービスを重点的に提供しようと思っていた。

 基地局をどこに整備するかを考えるうえで根底にあるのは、「パソコンからネット接続する人たちは、どういう場所で使うか」ということ。もちろん一番多いのは自宅からだが、既に日本では光ファイバー接続の普及率が約30%、ADSLも約50%に達している。光ファイバー接続は月額3000~7000円、ADSLならば1500~2000円程度と安い。モバイルWiMAXをつなげて、さらにADSLの回線を維持するとなると、ネット接続回線のコストが倍になってしまうのでメリットが出せない。それを踏まえて、パソコンにデータカードをつなげて使う人たちがどんな場所で使っているかを考え、喫茶店や駅などに重点を置いていた。総務省に基地局の設置申請をしたときも、なるべく幅広いエリアを面的にカバーするという方針であった。

 ところが、実際に試験サービスのユーザーや報道関係者の声、社内の試験結果などを見ると、「自宅で使えないのか」という声が予想以上にあることが分かった。それを踏まえ、やはり家の中でもモバイルWiMAXが使える必要がある、面的なカバーよりも密度を追求すべきと方針転換した。

 当初立てた面的なカバー範囲の計画は既にクリアしているが、それだけだとどうしても偏ったエリアになってしまう。アンテナを設置する際、地権者との交渉にかかる期間がまちまちなことや、高層ビルの多い地域はビルによる反射で電波の到達範囲が変わってくることなどが原因だ。特に東京の新宿と池袋が課題だと考えているが、いずれも7月までには改善できるだろう。

 当初は、宅内で2.5Mbpsといったデータ転送速度を出すことは無理だと思っていたが、きめ細かな置局を進めていくことで、家の中でも高速接続できることも分かってきた。私の自宅は鉄骨鉄筋コンクリート造のマンションの10階にあり、基地局からは200mくらい離れている。それでも10Mbps程度の実効速度が出ている。どうやらモバイルWiMAXの電波が周囲から回り込んで、受信感度が良くなっているようだ。

実際にUQのモバイルWiMAXを試用したところ、屋内では使用できないところがまだ多いように感じた。

 基地局は建てれば建てるほど良いというわけではない。近接するセル間をきちんと制御することで100%の力を発揮できるし、混信が出ると、端末で見えるアンテナ強度は“バリ5”であっても、実際にはつながらないという事態が起こる。

 そこで、基地局と基地局の谷間になる位置に、混信しないよう出力を抑えた基地局を追加で設置するという作業を進めている。これ以外にも、都市圏では基地局のアンテナの仰角(チルト)を下げる、需要の多い高層ビルの上階のみをピンポイントでカバーする指向性の高いアンテナを設置する、といった手法がある。こうした手当てが、建物の中でも高速でモバイルWiMAXに接続する上でも有効と分かった。

 ビル内であれば、フェムトセルと光ファイバーを複数設置するという方法もある。従来の3Gであれば、ビル内は基地局ではなく、出力20mWを切るような中継局(リピータ)を使うことも多い。だが、それは「つながっていれば良い」という音声通話の世界の話だ。モバイルWiMAXを求める人はパフォーマンスの高さを重視するだろうから、当社はビル内も中継局ではなく、基地局を設置していきたい。

 マクドナルドやスターバックスなどの飲食店については、東京近郊のかなりの店舗に足を運んだ。特に何の手当てを施さなくても店内で10Mbps程度の実効速度が出るところもあるが、そうでない店舗もあることを把握している。高速接続できない店舗とは、今後個別に交渉して接続できるようにしたい。

モバイルWiMAXの規格をIEEE 802.16eとして策定する際、既存の3Gのように通信網の整備に巨額のコストを掛けないという方針があった。きめ細かな置局を進めるというのは、低コストで通信網を作るという規格の狙いと矛盾するのではないか。

 コストとサービスは表裏を成すものだ。ユーザーが求めているのは、あくまでサービスだと考えている。

 光ファイバーやADSL接続のように、ワイヤーで縛られないサービスがあるなら、その方が良い。例えば光ファイバーやADSL接続の場合、工事の際に見知らぬ業者が宅内に入るのが嫌だという女性もいるし、学生を中心に、そもそも工事自体が面倒だという人も多い。たとえコストが上がったとしても、多くのユーザーにモバイルWiMAXを使ってもらい、ユーザーの満足度を高められるならば、効果はあると考えている。月額料金も当初発表した通り、月額4480円の完全定額制だ。