3Dが体感を伝えるメディアになる

 3次元(3D)CADなどを開発・販売する仏ダッソー・システムズが、医療や生物といった分野の研究開発を強化している。3Dを設計手段としてだけでなく、知識を伝えるコミュニケーション手段にするのが目的だ。バーチャルな世界で、製造者と消費者、あるいは専門家同士が結び付くことがイノベーションにつながるという。そんな環境を同社は「ライフライク・エクスペリエンス」と呼ぶ。ダッソーが描く3Dの役割などを、本社のベルナール・シャーレス社長兼CEO(最高経営責任者)に聞いた。(聞き手は志度 昌宏=Enterprise Platform編集長、写真は海老名 進)

ダッソーは今、「PLM(Product Lifecycle Management)2.0」を提唱しています。自動車や電機といった製造業は今、何に取り組むべきでしょうか。

 これまでの製品中心の“ものづくり”を、利用者中心のものづくりに変えていくことが重要でしょう。PLMは、デジタルモックアップ(DMU)を作成する、つまり3D設計と呼ばれる世界と、PDM(製品データ管理)と呼ばれるデータ管理の世界を一つに統合しようという考え方です。現状のPLM環境は、企業の中にある機能あるいは部署を統合する段階にあります。

 このPLMの中心に位置しているのは、あくまでも製品です。そこでは、「実際の世界でどういうふうに製品が使われるのか」ということが、実はあまり考えられていません。PLM2.0では、単に製品を開発するのではなく、その製品が実際にどう使われるのかを考えながら、製造・開発・発明をしていくことが重要です。プロダクト・ライフサイクルを「プロダクト・イン・ライフ」に変えようというわけです。

PLM2.0が目指す「利用者中心のものづくり」とは、具体的にどのような形になりますか。

 PLM2.0では、どういうふうに使うかまでを考えて開発されていることが重要になります。すなわち、利用者と常に対峙しながら開発するということです。将来の設計は、リアルな環境の中でモノを押したり引いたり、あるいは実際に図面を描くとかスケッチするということではなく、3D環境において利用のされ方までを検討することになるでしょう。

バーチャルな環境にアイデアが集まる

 おそらく、これから50年でものづくりの方法は変わります。バーチャルな世界では、エンジニアもスタイリストも考え方が変わるでしょう。専門家でなくてもリアリスティックなシミュレーションが可能になるのです。例えば電話を設計するとして、それが壊れるか壊れないかは、専門技術を知らなくても確認できますからね。

(写真・海老名 進)

 バーチャルな世界で色々な設計とかアイデアを集めることが、本当に実現される時代になってくる。新しいアイデアとして浮かんでいる“クラウドソーシング”などです。人と人をつなぐことでアイデアを共有し、設計やスタイリング、イノベーティブな考え方を進めていくわけです。今、「Facebook」でやっているようなことが、ものづくりの中でも起こるのです。

そうした時代になり、余りにも多くの顧客の声が聞こえるようになると、設計者としては、世の中に物を生み出すことに、すごく臆病になってしまい、いつまでも完成できなくなったりしませんか。

 それは設計者にとっての新しい課題だと思います。ただ、同時に多くのデザイナはやはり、「何をやりたいのか」ということについて、自分なりの確信を持って設計を進めていると思います。そこで一番問題になるのは、開発の過程に埋もれてしまい、消費者にとって真に重要なことを忘れてしまうことです。アイデアがあっても、それを形にしていくうちに重要な要素を忘れてしまうのです。

 消費者の意見を絶対命令として受け取るのではなく、やはり自らのアイデアがあって、それをどう実現していくのか。バーチャル環境で得られる意見は、一つのポジティブなインプットとして受け取り進めていく必要があります。