眠らない会社に挑戦

 開発プロセスの抜本改善に関してはもう一つ考えていることがあって、2009年4月から面白い実験をやります。これも数年前から言っていたのだけれど、うちの社員はなかなか乗ってくれなくて。今、不景気になったから、社員がようやく信じてくれて、いや、信じていないのかもしれないけれど、とにかくやってみるかと。それは我が社を「眠らない会社」にすることです。「24時間開発」を実現したい。

社員を眠らせないのか。

 社員ではありません。会社が24時間眠らないで、24時間連続して開発を続けられる仕組みを作りたい。例えば、日本で8時間設計したら、インドかヨーロッパで8時間製造し、それを南米に持っていって8時間試験をする。日本から見ると、朝来ると、自分が設計したソフトが製造され、一通りの試験が終わって手元に来ている。

 社員を眠らせないどころか、8時間以上働くことを禁止する。8時間しっかり働いたらもう帰れと。8時間たったら、ドキュメントやコードを保存しているファイルに日本からアクセスできない。インドにアクセス権が移っていて、インドの人はドキュメントを見ながら、さっきお話した自動化ツールを駆使して製造する。こういうモデルプロジェクトをやります。インドとドイツに子会社ができたから、日本と分担してやってみようと。

(写真・小久保松直)

 とにかくチャレンジすることが大事。今、プランを作ってモデルで検討し始めて、今年中には実験をやりたい。何しろ一度はやってみたい。世界3極にならず、2極で終わってしまってもいいから。今でも、製造工程に入っている案件で海外に渡しているものはあります。例えば、日本で書いたソースコードを北京の子会社に送ると、北京の方でソースコードのチェックをわーっとやって、ぱっと返してくれる。こういうサービスは社内ではやっているんですよ。

 でも、それはあくまでもソースチェッカーのところだけなので、もうちょっとロジックまで追って、びしっとやってみたいじゃないですか。自動生成したものも含めて、全体のロジックがきちっと確認できるとか、業務知識がからむところまで世界各国でやれるようになったら、すごく効率が上がると思う。

自動車メーカーも、3極でデザインとマニュファクチャリングをどう速く回すか、検討していた。

 たぶん開発スピードを速めたいと思ったときに、そういうやり方を着想するのでしょう。会社が寝ないのが一番速いですから。それと何と言っても回線が安くなったのが大きいです。こういう新しいやり方を考えるときに、ネットワークの費用をまったく無視して議論できるようになった時代になりました。

 もちろん、ただというわけではないですが、全体に占める通信コストは劇的に減りましたでしょう。通常のコミュニケーションを取るにはインターネットで十分だし、遠隔地から日本のセンターにアクセスすることも可能です。

 米セールスフォース・ドットコムのデータセンターは日本にはない訳です。日常動いているシステムが日本にセンターがないのに、開発や運用面では問題がない。そもそも、デバッグは多少遅れてもかまわないし、リモートバッチだっていい。テストそのものをミッションクリティカルなアプローチでやる必要はまったくない訳ですから、可能性は色々ありますよ。やはり、コミュニケーション、ICTが安くなって、こんなことを自由に考えられるようになったのは本当に大きいですね。テレビ会議だって、ただ同然でやれますしね。