Open Embedded Software Foundation(OESF)は,組み込み機器の開発に米グーグルのAndroidを使い,その標準化や共同開発を推進する。企業内の内線電話機からCATVのセットトップ・ボックス(STB),家庭内の情報家電などへの展開を図る。オープンソースによるソフトウエア開発に資金配分のスキームを持ち込む計画もある。OESFの三浦代表理事にその狙いを聞いた。
OESFの発足の経緯は?
これまでアイ・ピー・ビジョンという会社でAsteriskなどオープンソースのSIP(session initiation protocol)サーバーを使ったシステム構築を手がけてきた。2008年1月ころからフルタッチパネルの内線IP電話機をAndroidで作れないかと試行錯誤してきた。
社会人になってから30年になるが,電話機はユーザー・インタフェースも機能も変わっていない。どこの機器も見かけは似ているが,特定のPBXにしかつながらない。それがAndroidなら様々なアプリケーションが動く。作成したアプリケーションは,携帯電話だけでなくほかの機器に展開できる。
このアイデアを電話機メーカーに持っていったが,メリットを理解してもらえなかった。そこで交換機を手がける複数のメーカーに相談し,電話機だけでなくエンベデッド系全般の団体を立ち上げることにした。一般社団法人として登記したのは2月12日。3月1日に受け付けを始め,23社でスタートした。
なぜ内線電話機にAndroidなのか。
我々はSIPアドレスを使えば,世界中どこでもコネクションできる環境が来るだろうと5年くらいやってきた。実際「Gizmo」や「Skype」など,パソコンから全世界に電話をかけられる仕組みがいくつかあるが,これらはインフラとして成長しなかった。そこで電話機を作ろうと考えた。
Androidは自由度が高く,内線電話機を作れるし,アプリを立ち上げていなくても着信できる。米アップルのiPhone向けにはSIPクライアントがいくつかあるが,これらはアプリが立ち上がっていないと着信できない。しかもiPhone向けは特定のハードウエアで動くアプリしか書けない。
このプラットフォームで,電話機は変わっていくという考えか。
内線電話機だけでなく,デジタル・フォトフレームやSTBといった機器がネットワーク・クラウド,あるいは企業内のイントラネット・クラウドの情報端末になるだろう。
端末がクラウドにつながると,アプリケーションがダウンロードされる,あるいはアプリケーションが連動して動く。これらの機器に対しては,同一のプラットフォーム上でアプリケーションを開発できるというメリットが大きい。
オフィスの内線電話機も変わってくるだろう。普段はキーパッドが表示されており,ここから電話をかけられる。さらにブラウザを表示してイントラネットのホームページにアクセスすると,人事情報のページから休暇を申請できる。会社にある電話機が,アプリケーション端末になるわけだ。こうした電話機には,導入した後からでもアプリケーションを開発できる。
さらに内線電話表を作らなくても,電話機から社内のLDAPサーバーにアクセスすれば,すぐに相手に電話をかけられる。得意先はお気に入りリストから呼び出せばよい。
IP-PBXにつながるなら電話機はどこにあっても同じで,社内にある必要もない。Linuxサーバーで動くIP-PBXを買う必要もなくなり,「Amazon EC2」などのクラウドにSIPサーバーを置いてしまえば良い。電話機のアドレスさえ分かれば,ユーザーがどこにいても内線扱いで電話をかけられる。
代表理事
三浦 雅孝(みうら・まさたか)氏
(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2009年3月25日)