世界とは異なる進化を遂げた日本の携帯電話産業。先進的ではあるものの,携帯電話関連企業はその独自さゆえに,成長の限界に近付く日本から世界に飛び出せないでいる。一方で,海外の携帯電話関連企業は,これまで日本が築いてきた携帯電話事業のビジネス・モデルを学習し,吸収しようとしているかに見える。日本と海外の通信事業に詳しいスウェーデンのエリクソン プロダクト&ポートフォリオのマイケル・バック副社長に,日本の携帯電話産業復活の処方せんを聞いた。

(聞き手は中道 理=日経コミュニケーション


スウェーデン エリクソン プロダクト&ポートフォリオのマイケル・バック副社長
写真●スウェーデン エリクソン プロダクト&ポートフォリオのマイケル・バック副社長

日本の携帯電話事業者と欧米の携帯事業者の違いは何か。

 日本で特徴的なのは,携帯電話端末から大量のデータ・トラフィックが発生している点だ。アプリケーションが多様で,ビデオ・データなども携帯電話でやり取りされている。一方,海外は,パソコンを使った通信が携帯電話網のデータ・トラフィックの大半を占め,携帯電話でのデータ通信はそれほど盛んではない。

iPhoneやAndroid,ノキアのハイエンド機ではデータ通信が頻繁に発生するように思えるが。

 iPhoneという機種に限って言えば,確かに大量のデータがやり取りされており,日本の端末と同じと言って良いだろう。しかし,それ以外の端末では,通話やSMS(Short Message Service)などのトラフィックがメインだ。

 パソコンでは,ファイル共有ソフトや音楽ダウンロード,YouTubeなどのビデオ・サービスを利用できるが,携帯電話ではこうしたサービスが利用できない。欧米での携帯電話網を使ったデータ通信は,ADSLなどの固定通信サービスに対抗するものと考えるべきだ。

欧米において,携帯電話網を使った通信の主役はこれからもパソコンだろうか。

 そうは思わない。日本と同様に携帯電話の通信トラフィックが主流になっていくだろう。理由は二つある。一つはiPhoneに代表されるように携帯電話やスマートフォンが高機能になることだ。ここではマルチメディアを活用した新しいアプリケーションが使われるようになる。もう一つは,携帯電話とパソコンの中間に位置する製品が今後普及してくることだ。

 こうした端末の充実によって携帯電話でのテレビ視聴というスタイルも,伸びてくるだろう。ただし,携帯電話でのテレビ視聴では,コンテンツの充実,技術,課金の問題など解決すべき問題があるため,ビジネスとして成り立つまでに長い時間がかかると見ている。

携帯電話で既にリッチなアプリケーションが使われている日本と異なり,欧米の携帯電話事業者にはまだ成長する余力があるということか。

 その通りだ。日本のiモードのような仕組みが欧米でも成り立つだろう。つまり,無償のインターネットの情報をそのまま提供するのではなく,ユーザーの使い勝手が良いように加工したコンテンツを提供するというモデルだ。そのために,携帯電話事業者とメディア企業との組み手が重要になってくると見ている。