[後編]日本に進出して10年 当社はすでに“日本企業”

プロセスはどう改善しているのか。

 今注力しているのが、コンサルティングと大規模な契約管理を遂行できる能力をもっと改善することです。これからはお客様のニーズを予測して、もっとこちらから積極的に提案し、お客様の潜在的なニーズから成長の機会を提示できなければ、お客様に食い込めないし勝ち抜いていけない。

 この一環で昨年、米国ニュージャージー州にコンサルティングの中核部門を設立しました。米国人CEO(最高経営責任者)の下、1150人のコンサルタントが働いています。我々のお客様トップ60社に日々お伺いして、お客様の成長の機会についてコンサルティングさせていただいています。

 並行してコンサルティング分野そのものの専門知識をもっともっと深める研究も続けています。我々がお客様にお届けできる価値をより高いものにすることが目標です。

 最終的にはコンサルティング活動と研究活動を結び付けます。我々のITサービスや製品の研究開発サービスで、お客様がコストを削減したり、製品開発期間を短縮したり、設備投資を下げられるような、より良い提案をできるようにしたいと考えています。

危機感があれば変われる

先ほど日本企業は内向きと指摘されたが、グローバルソーシングを使わせるためには何が必要か。

 トップの意識改革に尽きます。

 グローバルソーシングを利用していくぞと、彼らがリード役にならないと話にならない。中間管理職の行動様式しか持っていないトップはそうはなれませんね。

どう意識を変えていきますか

アジム・プレムジ 氏
写真:小久保 松直

 先ほどお話ししたコンサルティング部隊が動きます。部隊の中核は米国にありますが、日本にも昨年部隊を作っています。

 同じように英国やドイツ、フランスにも現地のコンサル部隊があります。各国の事情に合わせてコンサルティングできるよう、7~8割が現地の従業員です。残りは米国の中核部隊やインド本社、それ以外の国籍の従業員で構成します。現地のアイデアにグローバルのナレッジを加えてコンサルタントの質を高めます。

 どの国でもグローバルソーシングを実行すると決断した企業には、強いイニシアチブを持つトップがいるものです。その意味で日本企業のトップの方たちが基本的な考え方、内向きになる保守的な考え方を変えていただかないことには話は進まない。トップの危機感さえあれば、あとは我々がお手伝いできます。

 面白い例があります。当社のお客様にフランステレコムが加わりました。フランスは、私が思うに日本よりもずっと保守的な国ですよ。それでもトップが変わり始めているのです。

 フランステレコムのトップを変えたのはグローバルなプレッシャーです。話をしてみて分かりました。思いきり肩にのしかかっている、それが変革を促したのだと。日本の保守的なトップもきっと変われます。

ウィプロはすでに“日本企業”

言葉の壁でインド企業への直接発注をためらう顧客もいる。

 ウィプロの日本法人はもう完全に“日本企業”です。経理部門を除いて日本トップを含む要職はすべて日本人に任せていますし、260人の従業員のうち200人は日本人です。

 インド人スタッフは、わりと短い周期でインドと日本を行ったり来たりしています。その6割はインドで半年ないしは3カ月のビジネス日本語のトレーニングを積んでいて、日本語がきっちり話せます。

 日本に進出してもう10年です。完全に彼らも日本人化していますよ。インド企業と構えずに、安心して日本企業のトップもグローバルソーシングの一歩を踏み出してほしいと思います。

 昨年包括提携した伊藤忠テクノソリューションズとの協業も進めます。すでにお互いの強みを補完できる分野を2、3絞り込んでいます。

 このインタビューの前にも奥田(陽一)社長と会ってきました。絶対この提携は成功させようと、やる気を示してくださいました。

印ウィプロ 会長
アジム・プレムジ 氏
1966年、米スタンフォード大で電子工学を専攻中に父親が急逝。卒業後に21歳でウィプロ代表に就任した。当時のウィプロは従業員350人・売上高200万ドルのピーナッツ油精製会社だったが、80年代にITビジネスに進出。2000年にニューヨーク証券取引所に上場した。2008年3月期の売上高は約50億ドルで8割以上をITサービスが占める。富豪にして倹約家だが2001年に私財で初等教育のためのアジム・プレムジ基金を設立。インド1万7000校・250万人の子供が恩恵を受ける。1945年7月生まれの63歳。

(聞き手は,星野 友彦=日経コンピュータ副編集長)