米テクノバスは,FTTHを実現するPON(passive optical network)の伝送装置向けにチップを提供する半導体メーカーの大手である。日本国内で大手通信事業者が採用するONUやOLTにも,同社のチップが使われている。光分野を中心に,現在の通信業界の状況や同社の戦略について,代表取締役兼CEOであるグレッグ・力ルタビアーノ氏に話をきいた。

(聞き手は高橋 健太郎=日経コミュニケーション)


米テクノバスのグレッグ・力ルタビアーノ代表取締役兼CEO
写真●米テクノバスのグレッグ・力ルタビアーノ代表取締役兼CEO

現在の通信業界の状況をどのように見ていますか

 かつて一番進んでいる市場は米国でした。しかし,今はそうではありません。アジア,特に日本のユーザーが新しい通信技術を最初に使うからです。市場規模という観点で見ると,やはりかつては米国が最大でした。しかし現在,一番大きな市場はアジア,特に中国です。

 以前は,技術があればそれだけで競争できました。しかし標準化が進んだ今,技術はどこにでもあります。競争で勝つためには,全体のソリューションが必要になるのです。

 またかつては,システム・ベンダー(装置ベンダー)がすべての技術を持っていました。いわゆる垂直統合モデルです。しかし,システム・ベンダーが何でもできる時代は終わりました。まず標準規格の存在が大きくなり,自社で技術を抱えていることができなくなったのです。

 現在は,技術が半導体の中に集約されています。半導体が複雑になり,開発するための投資が莫大になりました。このため,システム・ベンダーは自分で半導体を作れなくなりました。この結果,半導体の専門メーカーに任せなければなくなったのです。

いつごろからこうした状況になったのでしょうか

 この10年間で少しずつ変化してきました。今は,光の分野だけでなく,無線やインターネットなど,あらゆる通信分野で,こういう状況になったことがはっきりしています。

最も進んだ日本市場で力を付けるべき

そのような状況の中,競争力をつけて成功するにはどうすればよいのでしょうか。

 条件の一つは,一番進んでいる市場で成功しなければならない,ということです。そうしなければ,自分の製品が一番進んでいることにならないからです。

 たとえ一番進んでいる市場が自国の市場でなくても,積極的に進出して,そこで顧客をつかんで,学習して,良い製品を作る。これが成功する秘訣になります。

 ですから,私たちの戦略は,最も進んでいる日本のユーザー,日本の通信事業者,日本のシステム・ベンダーが満足できる製品を作るということです。日本で満足してもらえる製品なら,世界のどこにいっても満足してもらえます。日本で成功できるなら,世界中で成功できるということなんです。

 もちろん日本とまったく同じ製品がそのまま売れるわけではありません。ただ,日本市場で鍛えられた新しいビジネス・モデル,アプリケーション,アーキテクチャ,エコシステムは大きな強みになります。

なぜ日本が一番進んでいるのでしょうか

 日本の通信市場は少し特別な特徴を持っています。一つは,通信事業者が自分のネットワークに対する投資を長い目で見るという点です。米国や欧州では,リターンが早く得られないなら,投資できないと判断しがちです。

 もう一つの特徴的な点は,通信事業者間で本当の競争があるということです。ほかの国では,日本ほど通信事業者間に競争がありません。競争があると,もっと革新的な世界になるでしょう。

日本の通信業界が競争的かどうかは議論が分かれるところだと思いますが,実際に競争が激しいのでしょうか。

 実際,海外に比べると競争は激しいと思います。例えば,FTTHサービスで見ると,東京にいるユーザーなら,いくつもの事業者から選ぶことができます。日本のように,数社の事業者が競争して,ユーザーがその中から選択できるというのは,非常に珍しいと言えます。ほかの国では,電話会社1社だけが提供しているという状況です。

 競争があるということは,競争に勝つために通信事業者はもっと良いサービス,もっと良いアプリケーションを考えなければいけません。そうすると,ユーザーは,より良いサービスやアプリケーションが利用できるようになります。

 ユーザー自身の目が非常に厳しいという点も,日本の特徴と言えます。日本の一般コンシューマは,新しい製品やサービスをいち早く利用したいと考えます。これはほかの国には見られない特徴です。

 さらに,ワールド・クラスのシステム・ベンダーがたくさんあることです。特に光分野では,NEC,富士通,三菱電機,日立製作所,古河電気工業,住友電気工業,と挙げていくとリストが長くなります。ほかの国,例えば米国では,これほど大きいベンダーはもうなくなってしまいました。多くのベンダーが競争をすれば,良いものができます。

 こうした条件がそろっているから,日本は新しいサービスをいち早く始められるんですね。