原田泳幸氏は、2004年に米アップルコンピュータから日本マクドナルド 代表取締役に転身。業績低迷が続いていた日本マクドナルドの立て直しに取り組んだ。原田氏のトップ就任後、同社の売上高は32%増加(2004年12月期比の2008年12月期実績)、経常利益率は2.1ポイント増加(同)した。何が同社の成長を牽引(けんいん)しているのか、「100年に一度」といわれる未曽有(みぞう)の経済危機下で経営者は何をするべきなのか、話を聞いた。
(聞き手は多田 和市=コンピュータ・ネットワーク局 編集委員、「経営とIT新潮流」編集長)

日本マクドナルド 代表取締役会長兼社長兼最高経営責任者(CEO)の原田 泳幸氏
日本マクドナルド 代表取締役会長兼社長兼最高経営責任者(CEO)の原田 泳幸氏
写真:辻 牧子

日本経済は「100年に一度」といわれる深刻な危機に見舞われています。この経済危機は、日本マクドナルドの経営にどのような影響を及ぼしていますか。

 今の経済危機が、当社にとってチャンスかリスクかと聞かれれば、私は両方だと思います。何もしなかったら、他社と同じように悪影響を受けるし、何かをすれば、それがチャンスにつながってくる。ですから今は、チャンスとリスクの両面に対して、対策を取らなければいけないと考えています。

 それでは、どうやってチャンスを生み出していくかというと、まず差別化です。どれだけ独自の強さを引き出して、差別化を強力なものにしていけるかです。

まだまだかなりの無駄が見つかる

 一方、リスクは経営の財務部分になりますね。経営資源を適正配分していくことを、もっと積極的に、勇気を持って決断しなければいけないと思います。会社の中に、本当に業績に結びついてくる活動やコスト削減の努力がどれだけあるのかと見回すと、まだまだかなりの無駄が見つかりますね。

 経営資源の戦略的な配分の見直しは、足元の経済危機への対応というよりは、私が就任してからの5年間、継続してきたことです。例えば、店舗社員はどんどん増やしましたけれども、本社の社員は少しずつ減らしています。構造改革をしながら、成長戦略に経営資源をシフトする、そういうことを時系列的にやってきたつもりです。

あらためて、日本マクドナルドの独自の強さとは何でしょうか。

 2つあります。1つ目は「バリュー・フォー・マネー(Value for Money)」。同じ値段でも絶対にお得感があり、納得感の高い商品、これが当社の強さです。

 2つ目は「スーパーコンビニエンス」。ドライブスルーの多さや商品提供スピードの速さなど、お客さんにっとての高い利便性です。その利便性の発展形がeクーポンなどのeマーケティングです。それから、店舗の24時間営業を増やしていることも、お客さんにとっての利便性を高めることにつながっていますね。

経済危機の「底」がどこなのか予想できない状態です。当面はこの不況が続くことを想定した経営戦略をとるのでしょうか。

原田 泳幸氏
原田 泳幸氏

 私は常々、社員に「世の中のせいにするな」と言っています。何の戦略も絵もなく、世の中が変わったから結果が変わった、それを不景気と呼んで受け入れてしまってはまずいでしょう。世の中がどうであっても結果を出す、それが経営だと思います。

 このことについて、当社の「デイパート戦略」の事例でお話しましょう。デイパートとは時間帯のことで、朝食(モーニング)、昼食(ランチ)、午後のスナック、夕食(ディナー)、深夜の5つあります。どの時間帯に、どういう戦略でいくか、これがデイパート戦略です。

 当社の戦略の優先順位は、やはり1番にランチ、2番に朝食です。優先順位が最も低いのがディナーです。ディナーは、戦略的にほとんど何もやっていなかったのですが、昨年の客数の伸びは、ディナーの時間帯が最も大きかったのです。それが一転して、今年は世の中が不景気ですから、ディナーの客数は激減しています。社員は「ディナーの客数が前年比で減っているから、トータルの客数は非常に厳しい」と言いますよ。しかし、それに対して私が言いたいのは「それは結果であって、何もしていない時間帯の客数が昨年より伸びて、何もしていない時間帯が下がっている。何もしていないのに世の中のせいにできるのか」ということです。

それでは、これからディナーの時間帯に対して、何か手を打っていくということですか。

 いいえ、先ほどの話は、ディナーに手を打とうという意見ではありません。何も手を打たなかったディナーの客数が落ち込んだことを世の中のせいにしてはいけない、という1つの考え方を理解していただくための話です。

 ディナーが落ち込んだので、何か対策を講じるのかいうと、そうではなくて、やはり一番大事なのはランチであり、次に朝食、そして深夜ということになり、戦略は変わりません。