米Embarcadero TechnologiesのDavid Intersimoneデベロッパ・リレーションズ担当副社長兼チーフ・エヴァンジェリストが来日し,2009年4月14日,日経ソフトウエアの取材に応じた。同氏によれば,64ビット版のDelphi/C++ Builder(コード名「Commodore」)は,2009年の製品化を目指していたが,2010年に変更になった。「より長期的な視点のプロジェクトになった」という。

(聞き手は原田 英生=日経ソフトウエア


写真●米Embarcadero TechnologiesのDavid Intersimoneデベロッパ・リレーションズ担当副社長兼チーフ・エヴァンジェリスト

Embarcaderoに買収されてどうか。

 Embarcaderoに買収されて9カ月で「All-Access」という完璧な新しいオファーリングを提供できた。Delphi,C++ Builder,Delphi Prism,JBuilder,Delphi for PHP,3rdRail,InterBaseといったCodeGearの製品と,以前からEmbarcaderoが提供してきたER/Studio,EA/Studio,Schema Examiner,DBArtisan,RapidSQL,Change Manager,Performance Center,DB Optimizer,J Optimizerなどを一体化したツールセットだ。アプリケーション・デベロッパ,データベース・アドミニストレータ,デザイナなど,ソフトウエア開発における役割がなんであっても,すべてのツールを使える。役割に応じてツールを買うのと違い,チームのメンバーが同じようにツールを持つことで,より良い形で色々な人が一緒に働ける。こういう経済状況で,それはとても大切なことだ。年ごとのライセンス契約を継続してくれれば,あなたはいつでも必要なものをすべて持っていることになる。

 Embarcaderoに買収される前は「はっきりしない状態(uncertainty)」があった。今はEmbarcaderoの一部であることを嬉しく思っている。CEO(最高経営責任者)はプログラマで,CodeGearのプロダクトを使ってきてくれた人だ。Turbo Pascalをお父さんに買ってもらったというくらいだ。Embarcaderoは米国で強かったし,CodeGearは米国の外で強かった。今の我々は,真にグローバルな研究開発を行える会社になった。

Delphiの64ビット版(x64版)である「Commodore」(コモドール)はどうなったか。以前のロードマップでは2009年の製品化ということだったが。

 64ビット版Delphiの製品化は2010年をターゲットにしている。現在のコンパイラで64ビット化する選択もありえたのだが,それはテクノロジの浪費ではないかと考えた。より長期的な視点のプロジェクトとして進めている。Delphiのコンパイラはもう13歳か14歳だ。いろいろ機能を付け加えてきたが,ここで完全に書き直したい。現在の技術であれば,フロントエンド/バックエンド・アーキテクチャのコンパイラを作れる。DelphiとC++のフロントエンドを持ち,バックエンドはx86,x64のWindows,Linux,Macintosh,ARMなどのモバイル機器をサポートしたい。フロントエンドとバックエンドは中間的なデータ構造を介して情報を伝えることになる。これは,Javaのバイトコードのようなものではなく,ネイティブで,ハイスピードで,スモールなものだ。我々は「ネイティブ」「マネージド」「ダイナミック」という三つに開発ツールを分類していて,DelphiとC++ Builderは最初のネイティブに含まれる。マネージドは.NETとJava,ダイナミックはPHPやRubyだ。DelphiとC++ Builderは,顧客が求めるネイティブの開発ツールであり続ける。

 Linux用のDelphiであったKylix(カイリックス)を提供していたころは,二つのIDE(Integrated Development Environment,統合開発環境),二つのコンパイラ,二つのクラスライブラリを持っていることになった。これはうまくなかった。現在の技術なら,もっとモダンなアーキテクチャのコンパイラを作れる。

64ビット版が出ないということは,今年はDelphiの新製品はないのか。

 コード名「Weaver」の開発が進んでいて,フィールドテストの段階にある。我々とDelphi開発者が一緒に機を織る(weave)製品だ。Windows 7,タッチベースのGUI,クラウド・コンピューティングといった新しい機能への対応を盛り込む。2009年のうちに完成するだろう。

.NET Framework用のDelphi Prismは完成度が低いように思えた。

 Delphi Prismについては,今始まったばかりだということをわかってほしい。以前のクラスライブラリ「VCL(Visual Component Library)for .NET」では,.NET Frameworkの新機能に対応しきれなかった。.NET Framework 3.5,WPF(Windows Presentation Foundation),ASP.NETなどだ。こういうものが必要だという顧客は多い。.NETのすべての機能を使えるのがDelphi Prismだ。.NET Frameworkのバージョン4もしっかりサポートする。Delphi Prismでは,Delphi言語のパラレルな拡張もしている。「async」や「future」といったキーワードを使ったプログラミングをすると,コンパイラがマルチスレッドなコードを生成してくれる。こうした機能はC#にはない。

無償版として提供されていた「Turbo」シリーズはどうなったのか。

 TurboRubyは,これからのTurboシリーズのこれからの姿を現している。プログラミングを学ぼうという人のための,低価格で高機能なプロダクトだ。今後のTurbo製品が無償版なのか低価格版なのかは言えないが,Turboシリーズも前進していることは確かだ。